カウンセリングの最初に「ここで話された秘密は守られますので、ご安心ください」と言うという作法があります。
それを言われて安心する人も、それを言われて不安になる人もいます。客層によって傾向が異なるのかもしれません。(またどこかの権威に怒られそうですが)
それを言うとクライアントが安心すると説明する先生も多いですが、そうでしょうか。
言われて不安になる人もいる
産業カウンセラーなどは事業者や人事部と繋がっていますし、上司と接触する可能性もありますので、その作法は有効かもしれません。
私はクライアントの様子によって変えますが、あまり上記のようには言わないです。
すぐに話し始める人に対しては「ご安心ください」は必要ないでしょう。
また、上記のように言うとは怒るクライアントもいます。「当たり前でしょ」ってね。
手術の前に外科医から「切開した場所はちゃんと縫いますのでご安心ください」と言われたような感じかもしれません。
私の客層なら「は? ご心配なく」と逆に言われそうです。
※これは、カウンセリングの初めに口頭で言うかどうかの作法の話です。言わないとしても明示する必要はあるので、私のサービスでは申込時の同意書で守秘義務について記しています。
私が違和感を持っているのは「ご安心ください」の部分ですね。
安心するかはクライアントが決めます。
話せない理由は守秘の心配とは限らない
これまでずっと誰にも話せなかったことを話しにくるクライアントがいます。
それを人に話しにくいのは、秘密が漏れることを心配しているわけではありません。カウンセラーや医師に守秘義務があることくらい、言われなくても知っています。
そな人がこれまでカウンセラーにも医師にも話せなかったのは、「この人は秘密を守るだろうか」と心配しているのではありません。
人に言えない悩み。
たとえば、性暴力を受け入れてしまった自分への気持ち。たとえば、祖母が死んでホッとしたということ。たとえば、暴力をふるう父を憎みながら実は愛していたということ。
言えない理由として守秘の心配だけしか思いつかないカウンセラーって、ちょっと鈍い感じがします。
「守秘義務があるからご安心ください」というカウンセラーの言葉はときに残酷です。それは守秘義務がある人にも話せない悩みを持っていてはいけないかのようです。一番わかって欲しい気持ちを、のっけから分からないと宣言されたようなものです。
話しにくそうなクライアントには、私はこのように言うことがあります。
「言いたくないことは言わなくてもいいです」「話しやすいことから話しましょう」など。
クライアントの様子によっては、「いやぁ、暑くなりましたね」のほうがよっぽど安心してもらえる場合もあります。
ちなみに、「守秘義務があるからご安心ください」に拘るカウンセラーは、カウンセラー自身が自分の心を人に知られたくないという恐怖が強い人が多いような気がします。
それも相性かと思いますが。
神さまには懺悔という形で何もかも話さなければならないかも知れませんが、セラピストは別に神さまでも何でもないんですからね。だから、必ずしもしゃべらなくてもよいという、自由さのある心理療法の方が好きです。
三木善彦『日本の心理療法』共編
義務じゃなくても秘密を守る人に会いたい
また、「罰則があるから秘密を守る人」ではなく「罰則がなくても秘密を守る人」を探している相談者もいます。
そのような相談者にとって、「守秘義務があるからご安心ください」と言われるのは残念なことです。
「無資格カウンセラーは守秘義務がないから不安になるだろう」と言う専門家もいますが、その専門家は罰則や規則があるから秘密を守っているのでしょうか。
カウンセラーも人間ですから、罰則や規則が守秘について考えるきっかけになるということもあるかと思います。
ですが、罰則や規則がなかったら秘密を守らない(けど、罰則や規則があるから守る)ような人、カウンセラーに向いているでしょうか。
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また、義務であるか以前にクライアントの利益や安全を考えている人は、「プライバシー保護のため」と言う傾向があります。「守秘義務」は支援者の立場についての言葉、「プライバシー保護」はクライアントの立場を考えた言葉ですね。
※カウンセリングの初めに口頭で言うかどうかの作法のお話でした。信頼してカウンセリングを受けるときもサービス説明や申込書類などで守秘義務は確認しておくことはお勧めします。