心理セラピー/心理療法を選ぶにあたり、「どの療法がどの疾患に効果があるか」という情報が整理されてきています。それはどんどん調べやすくなるでしょう。ただ、それは統計的な情報となります。
疾患/心の病気というよりも、心の悩みという感じのときは、自分に合っているかということも考える必要もあるでしょう。
クライアント側としては便宜上に2つのルーツがあると理解しておくと実用的だと思います。
多くの心理セラピストは両方を組み合わせていると言いますが、実際にはどちらかに軸足がある場合が多いです。
それらを「精神力動&人間性ルーツ」と「行動主義&認知ルーツ」と呼びましょう。
精神力動&人間性ルーツ
これは力動アプローチと人間性アプローチをセットにしています。
精神力動アプローチというのは、精神分析とか感情焦点化のような、無意識や感情を扱うものです。
精神力動アプローチを一言でいうと、抑圧されたなにかを「解放する」セラピー。Kojunは「置き去りにされた自分を救済する」と表現しています。
そこでの切ない感動みたいな体験は旧くは「カタルシス」と呼ばれたりします。
人間性アプローチというのは、本人中心/傾聴カウンセリングや生き方を扱うものです。すごく人間くさいです。
人間性アプローチを一言でいうと、「一致させる」セラピー。
理想の自分(あるべき姿)と現実の自分ギャップや、思考と感情の不一致などを解消します。
そこには「異常」を「正常」に治すというよりは、許しとか、手放しのような世界観があります。
なぜこれらをセットするかというと、精神力動アプローチは深層心理に触れてゆくので、人間性アプローチを伴っていないと、土足でクライアントの心に踏み込んでしまうためです。「権威のある専門家が患者の心を弄り回す」というスタイルは侵襲性が強いわけです。
なので、フロイトごっこみたいな極端に「精神力動/精神分析だけ」というのは、選択肢として除外してよいかなと。
行動主義&認知ルーツ
行動主義の心理療法ーツはイヌやネズミの動物実験です。
ですので、人間の行動も動物の行動も同じであるという考えが始まりです。人間性アプローチが人間くさいとすれば、行動主義アプローチは動物実験くさいです。
教育・保育、強迫症・恐怖症(条件反射っぽい側面あり?)などに応用されています。
認知アプローチはあえて簡単に言うと、行動主義アプローチの扱う「感覚インプット」&「行動アウトプット」に、主に「認知(思考)」を加えたものです。
行動主義が動物的な人間観だとしたら、認知科学はロボットAI的な人間観ですね。
うつ病など(考え方の癖みたいなものが関与?)に応用されています。
行動主義や認知アプローチを一言でいうと、プログラムを「修正する」セラピー。
「悩み」というよりは「精神疾患」のように捉え、「異常」を「正常」に治すという世界観がベースにあります。
これは「即効性のある方法で、たくさん治して手柄・実績を積む」という心理支援者のニーズにはぴったりで、支援者側にたいへん人気があります。今日の心理療法の第一勢力となっています。
もちろん、現代では流派派閥をこえた統合が起こっていて、行動主義ルーツでも、マインドフルネスや寄り添うことも取り入れた手法もあります。ですが、「間違いを正す」みたいなニュアンスがどことなくあるのはルーツによると思います。
比べてみると
行動主義&認知ルーツの方は、病気の治療っていう概念に近いかもしれません。
今日では、精神力動&人間性ルーツは人生の後半へ向けた心の成長みたいな感じ。
事例定式化を重視して、価値観で選ぶなら、治したい(直したい)のか、ゆるしたい(解きたい)のか、って感じかもしれません。
また、次のように階層イメージを持つと分かりやすいかもしれません。
行動・環境(他者にも観察可能)
意識・認知(本人には観察可能)
無意識(観察困難)
行動主義&認知ルーツの心理療法は、上の方に軸足のあるアプローチ。
精神力動&人間性ルーツの心理療法は、下の方に軸足のあるアプローチ。
と言えるかと思います。
お悩みの性質や状況によって、どちらに比重を置くのがよいかとなります。
疾患名(症状)と対応づけた「効果検証された療法」というデータベースに載りやすいのは行動主義&認知ルーツのものだと思います。症状の奥にあるものを扱わないわけでもないですが。
症状ではなく症状の原因を扱いたい、根本解決を求めるクライアントが好みやすいのは精神力動&人間性の方かと思います。こちらでも症状が解消しないわけでもないですが。
ちなみに、Kojunの軸足は精神力動&人間性ルーツです。
学生のときは認知科学、精神デイケアでは認知行動療法や行動活性化などの実践技法を学びましたが、けっきょく逆です。
参考: