支援型マネジメントとPoints of You
ここでは、管理職が部下との面談でPoints of Youを活用する場合を想定して、心理の観点からヒントを書いてみたいと思います。
何が悩ましいか
通常のコーチングは本人(クライアント)の主体性に基づくもので、セッショニスト(コーチやカウンセラー)が何かを強制するものではありません。それに対して、マネージャーの立場では本人(部下や関係者)に何かを約束させる必要があります。
さて、どうしたものか? Points of Youやコーチング、カウンセリングの技法を使い、本音に触れさせておいて、何かを約束させる(コミットさせる)? 何か違和感ありますね。信頼を失いかねません。自分が部下だったら、そんなことされたくないですよね。
「本当の問題は何?」
「本当の問題は・・・、積極的に売込んでいないということです」
「ではどうする?」
「積極的に売込みます」
「約束しますね」
「は、はい(二度と本音で話すもんか)」
「自分が部下だったら、そんなことされたくない」というのは、組織開発では「相互性」の問題として扱われます。
Points of Youの機能面は、主に「インスピレーションツール」と「コミュニケーションツール」があります。レイアウトチャートによるセッションは「インスピレーション」(課題発見、課題解決、気づき)を促します。「相互性」が問題となるということは、「コミュニケーション・ツール」としても使いこなす必要があるということになります。
マネジメント・セッションの目的
マネジメントにおけるセッション(面談)の目的を次のようにおいてみましょう。
- 深い気づきを引き出す(awareness)
- 意欲を高めて、約束させる(motivation, commitment)
1つめの「気づきを引き出す」については、養成講座で学んだレイアウトチャートの手法が活用できます。それに加えて、2つめの「意欲を引き出す」が必要になるということです。
この目的設定がお悩みとしっくりくるマネージャーはこの先を読んでみてください。
「意欲」を可能にするもの
意欲は、力量に合った課題に対して発生します。フロー理論では、「スキルとチャレンジのバランス」と表現されたりします。(すでに実践しながらこの記事を読み返している場合は、フロー理論を調べてみるとよいかと思います)
自分の力量を超えた課題に対しては、人は恐怖感をもちます。これはその個人が臆病だからとかではなく、人間の性質です。逆に、恐怖感をもたないようなテーマで面談をしているとしたら、それはそれでもったいないことです。
恐怖感に対して適切な調整がされた場合、信頼関係が可能になります。
マネジメント・セッション(面談)において、「恐怖感」と「信頼」が対義語になります。
恐怖感の調整
心理的な調整
コーチングゲームのレイアウトチャートの中にある「あなたを止めているものは何か?」というような問いに答えることで、「恐怖を認めることで、恐怖が解消する(お化けの正体みたり)」または「恐怖を認めることで、対策を考えることができる」が起こります。
なので、恐怖への対応が済むようにセッションを勧めます。チャートの中でそれが完了しなかった場合は、行動計画の段階でそれを補います。
相互性による調整
そこにあるリスクや不安に対して、面談者が理解を示すことで調整がはかられます。これはどちらかというと面談者側のチャレンジとなります。
業務課題を現実的なものに設定しなおしたり、責任分散、チャレンジ自体を評価するなど、面談者側も何かを約束する必要があるかもしれません。
(養成講座で学んだバルーン・ストーリーを実践することになります)
選択を自覚する
恐怖感が残っている状態で、別の恐怖を使って本人を動かそうとする(約束させて、達成できないと評価を下げるなど)という選択肢があります。このアプローチを「プレッシャー(脅し)」と呼びましょう。それをすると、信頼関係は減ります。
業務内容の恐怖感に加えて、マネジメントから受けるペナルティの恐怖感が加わります。そうすると、人は「自己防衛」という状態となります。反抗的になったり、本当のことを言えなくなったりします。
選択肢は2つです。
- 「恐怖感」を解消する(癒し)
- プレッシャーを与える(脅し)
面談者は、自分がどちらを使っているのかを自覚することをお勧めします。
どちらのアプローチが良いかを判断するより前に、自覚する能力が大切です。
恐怖を解消しようとしているのか、別の恐怖を使って恐怖を乗り越えさせようとしているのか。自分は癒そうとしているのだと思いながら、実際には脅しているということがあります。
自覚しながら敢えて「脅し」を使うのであれば、相手に与えているプレッシャーを自覚することができ、必要のない「脅し」は減るでしょう。
「脅し」を使えば、信頼は減ります。その状態では、「恐怖感の解消」というプロセスを支援できなくなります。なぜなら、恐怖感の解消のプロセスには、正直になることが含まれていて、それは信頼関係の下でしか実現しないからです。
意欲が高まっている状態(フロー状態)だと、多少のプレッシャー(脅し)に耐えることができます。
ですので、「脅し」を使うのは次のような場合が考えられます。「信頼関係を犠牲にしてプレッシャーで管理するしかないとき」「十分にフローが高まっていて、少々のプレッシャーで信頼関係が崩れないとき」。
なお、補足します。外的動機付け(飴と鞭、締切)は非創造的な課題に対して成績がよく、内的動機付け(その人の想い)は創造的な課題に対して成績がよいことが、実現研究で示されています。
モニタリングの項目
こんなことを自覚しながら面談するとよいのではないでしょうか。
- 本人は、フロー状態か、そうでないか
- 本人に、恐怖感が残っていないか
- 本人は、信頼の状態か、自己防衛の状態か
- 面談者は、敢えて「脅し」を使っているか
- 「相互性」が成立しているか(敢えて成立させていないか)
- 本人にとって、力量にあった課題(行動計画)になっているか
面談のフェーズを「気づきの支援」と、「業務上の約束」とに分けるのもよろしいかと思います。「ではこれから、業務上の約束に進みましょう」と切り替えます。別の用紙を用意して、発想したことと約束したことを区別するのもよろしいかと。
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