過去に傷ついた人が気をつけるべき採用面接での質問

職場で虐めや暴力などの被害にあったことがある人は、採用面接において、気をつけた方がよいことがありす。それは面接官の次のような質問です。

「これまでの職場で嫌な人はいましたか?」

「これまでの職場で嫌な事はありましたか?」

「これまでで最も大変だったことはなんですか?」

これらの質問は、応募者の他責傾向(他人を責める)をテストするためのものです。つまり、上手くいかないことがあったときに、他者のせいにしたり、人を恨んだりするモンスター人材かどうかを調べているのです。

多くの人は現在や過去の職場環境について被害者意識を持っています。上述の質問は、それらが噴き出すかどうかを試してるのです。

ところが、本当に虐めや暴力被害に遭ったことがある人は、そのことを思い出します。

たとえば、職場で性被害に遭ったことがある人は、一般に想像されているよりも多くいます。そのような人がそのような質問をされると、「セクハラは困りますね」などと言ってしまうことがあります。それは面接官の目には、ちょっとしたことで「セクハラだ」「パワハラだ」と騒ぐタイプの人間のように映ります。

にわかには信じがたいような職場での虐めに遭っている人は多くいます。

しかし、人や組織に対するネガティブな発言は、すべて他責傾向として判断されます。面接官はそのために質問しているのですから。

対応バイアス

人間には対応させてしまう対応バイアス(基本的帰属エラー)という強力な認知バイアスがあり、「自分に起きた問題は環境のせい、他人に起きた問題は環境ではなくその本人のせい」と捉える傾向があります。

まったくの偶然の事故ですら、「日頃の行いが悪いから」「前世で悪いことをしたから」と言われるのをご存じでしょう。対応バイアスは、人の心や脳の性質なのです。

その質問が、そもそも応募者を評価するためのものであり、さらに対応バイアスがありますから、ネガティブな発言は過去に何があったかではなく応募者の人格として判断されます。

「酷い同僚がいた」「酷い職場だった」と応募者が言えば、その本人が未熟なのだろう、どこへ行っても不満ばかり言う人なのだろうと判断します。

実際には本当に過去の職場で被害に遭った人と、他責傾向・被害妄想的な人と両方が存在するのですが、面接官はその区別のために丁寧に話を聞くことはあまりありません。

私はカウンセリングを提供していて、職場等での虐め被害の相談を受けてきましたが、そんな私でも「その被害は本当かしら」とあやしく感じ、後々に「クライアントが最初に言っていたことは間違いなかった」と思い知ることがあります。つまり、そのような話に慣れているカウンセラーでさえ、被害の話というのはにわかには信じられないことが多いのです。

多くの場合、最初の印象と真実が真逆であったりします。「本当に酷い上司なんです」「とんでもない職場でした」と感情剥き出しで、自分の非は認めず、一方的に相手を責めている、そんな他責傾向丸出しのような人が、実は本当の被害者だったりします。

もちろん、他責傾向の人も他責します。

トラウマ支援をプロである私ですら、判断に述べ数時間を要するのです。面接官が初対面の3分で区別出来るでしょうか。かなり難しいと思います。

おそろしいことには、「これは他責傾向だ」と判断して不採用にした場合、それが間違っていたとしても答え合わせができませんので、面接官の判断能力が経験によって向上することはありません。それどころか、間違った判断をしたときでさえ、「自分は応募者の他責傾向を見ぬくことが出来た」と快報酬を得ます。このような答え合わせ不可能なな質問技法を信じている時点で、人材のプロではない可能性が高いです。

このようにして面接官は「過去に嫌な職場や人はありましたか」と尋ねると人の本性が判るという思い込みをさらに深めてゆきます。

応募者は回答し始めると頭が忙しくなりますので、このような質問技法が使われた時点で、責任を引き受けた対策が必要です。

これは、被害者が悪者にされる、いわゆる二次被害の類型に該当します。性被害に遭った人が「自分から誘ったんでしょ」「だらしないから狙われたんでしょ」と言われたり、虐待を受けた人が「問題を親のせいにするとはけしからん恩知らずだ」と叱られたりします。そんなことが時々あるというよりは、普通の人は必然的にそのように反応します。一部の心無い人ではなく、普通の人の反応です。

殆どの面接官は暴力被害を知りません。「どの職場にも気の合わない人、いやな上司くらいはいるよ」「俺のほうが修羅場を見てきた」くらいに思っています。人は皆、自分が一番苦労してきたと思っているのです。本格的なガスライティング、不正強要、汚職にまつわる脅迫、ストーキング、レイプなど想像も出来ないのです。

つまり、サバイバーはその(間違った)面接技法に対して意識的に心を防御しないと、二次被害に遭ってしまうことがあるのです。

サバイバーの対策

この現象を俯瞰すれば、かつての被害が面接官を通して二次被害を引き起こしているということです。

ですが、面接官に理解して貰おうと期待するのはお勧めしません。たとえ理解して貰えたとしても、プラスポイントにはならなくて、せいぜいゼロになるだけです。多くの場合は、相手が悪いことを説明しようとすると(あるいは自分は悪くないと説明しようとすると)、マイナスポイントになります。

「他の人も同じ状況でしたか」という質問にも気をつけましょう。これに「私だけでした」と答えると、問題は環境ではなく本人にあると判断されます。実際にはスケープゴート現象など複雑な状況があり得るのですが、面接官にそこまでの想像力は期待できません。

これは面接官の人格に問題があるわけではありません。面接官は敵というわけでもありません。あなたが体験した世界、一般的な社会人のどこでもあるストレスとはとは質が異なる世界を、殆どの人は想像できないのです。

面接官もモンスター人材を採ってしまうことを恐れていますから、そのような面接技法を使うわけです。あるいは、そのような目(対応バイアス)で人を見ます。これは仕方のないことで、当事者側で気をつけるしかありません。

次のように心得ておくのも良いかもしれません。

面接官があなたの過去の苦難について尋ねるとき、面接官はあなたの苦難についてはなんの興味もない。面接官が興味を持っているのは、あなたが人の悪口を言うかどうか、環境を恨んでいるかどうか、あるいは自分から問題を招いているのか、を見ている。

トラウマサバイバーは、社会が敵に回るメカニズムを熟知して、対処に慣れる必要があります。

とくに、トラウマから回復しつつある人は、堂々と真実を言いたくなります。しかし、面接では堂々と隠してください。それを言うのは今ではありません。

「誰にも理解されなかった」というトラウマ当事者たちの中には、そのような社会構造的なガスライティング(自分が異常なのだと思い込まされる)に陥っている人もいます。

二次被害を防ぐことができるのは、残念ながら面接官ではなく、あなた自身です。被害者からサバイバーへと変わる必要があゆのです。

理解されないことを計算に入れて行動するためには、サバイバー同士が存在を認め合い繫がる必要があります。繫がるというのは、集会を開くとか行動を共にするという意味ではありません。存在を知ることです。「私たち」を生きるとでも言いますか。

そして、対応バイアスというのは、自分について上手くいかないことは環境のせいと思えてしまうというものですから、あなた自身にも他責傾向の素はあるということは知っておいてよいのかもしれません。

参考

※当サイトの記事には独自の意見や枠組みが含まれます。また、全てのケースに当てはまるものでもありません。ご自身の判断と責任においてご活用ください。
※当サイトの事例は原則として複数の情報を参考に一般化/再構成した仮想事例です。
※学術的な訳語として「療法」「治療」という言葉が出てきますが、本サイトの心理セラピーは心理支援であり日本の法律における医療行為ではありません。

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