前回(生活ゲームの再構築という考え)の続きです。
報酬システムのフロー
さて、中毒性のあるゲームがどうなっているかみてみましょう。
※中毒性といっても、ギャンブル中毒は別のメカニズムなので対象外とします。わりと健全にゲームにはまっている状態(まともな金銭感覚があってもついお金を払ってしまうあたり)を想定しています。
人気スマホゲームの例
ある人気スマホゲームでは、マメな作業やバトルに参加・勝利すると「エネルギー」という報酬が得られます。
この「エネルギー」を使って「訓練設備」を作ったり、稼働させたりできます。
そして、「訓練設備」が稼働することで、キャラの「戦力」が上がります。
戦力が上がると、バトルで勝利の爽快感が得られたり、物語が進行します。
この爽快感や物語の進行は「目的的な報酬」で、「エネルギー」や「訓練設備」は「手段的な報酬」です。
「925エネルギーを獲得した!」「レベル9の訓練設備が完成した!」と派手に表示されても、エネルギーの使い道、訓練設備の役割がなければすぐに飽きてしまいます。
こんなふうになってますよね。
上流(エネルギーの獲得)
↓
中流(訓練設備の建設・稼働)
↓
下流(戦力強化、戦闘、物語進行)
ゲーム企画では、ボーナスや戦利品として下流の「戦力」を与えることは例外とします。
ボーナスや戦利品で「戦力」を与えてしまったら、プレーヤーはエネルギー獲得のため作業をする必要がなくなります。課金利用してエネルギーや設備を買う必要もなくなります。
「戦力」が原価のかからないバーチャル資源だからといって、ほいほいボーナス配布しないのです。
ポイント2:欲しがるものを与えればよいというものではない
これは児童教育のトークンエコノミー法や、ショッピングのポイント制度、利用に応じてブロンズからプラチナへとレベルアップする会員レベルなどが似ています。
いきなり現金を返すのではなく、「貯める・使う」をはさむ必要があります。
それによってポイントという中流(手段的な報酬)が創造されるわけです。
「お金」なんかも「手段的な報酬」ですね。
ゲーム企画は一般的な行動主義アプローチを凌ぐ
「目的的な報酬」を単に与えてはいけないというのは、実際のマネーが絡むカジノのゲームなどとも同じ構造になっています。カジノでは、プレーヤーが100コイン獲得するジャックポットを提供するためには、100コイン以上の失う経験をプレーヤーに負わせる必要があります。そうしないとカジノは赤字になります。勝たせて喜ばせるのは簡単ですが、負けても楽しめるゲームをつくる必要があります。
プロのゲーム企画は、子供にお菓子をあげて勉強やお手伝いをさせるというような安易な報酬システムとはレベルが違いますよね。
ゲームで課金されたり、カジノでお金を失うというのは、心理的マイナスです。そのマイナスを乗り越えてまで人を行動させる仕組みがあるわけです。
心の悩みの解決には、抵抗があります。その抵抗を乗り越えるためには、「褒められる」程度では無理なのです。その程度で変わるなら、とっくに解決しているのです。
心の悩みの解決、生活の変化にともなう抵抗というのは、これまでの生存戦略を手放すというものです。命の危険を感じるくらいの抵抗があるのです。
たとえば、引きこもっている状態から社会へ出ていく、意見を言えない状態から意見をいうようになる、自分を虐めなくなる、幸せを自分に許可する、健康な食生活をする、などなどはそうです。
そこで、上述の心理的マイナスを乗り越えてまで行動を起こさせるゲーム企画が参考になるわけす。
ゲームを再設計してみよう
現状の世界観を知る
いまあなたが自分に提供しているゲームはどのような構造になっていますか? 書き出してみましょう。簡単ではないですが・・・。
現状のゲームの例
上流:朝起きる、部屋を片付ける、勉強する
↓
中流:ストレスケアを身に着ける、転職する・就職する、病気をなおす
↓
下流:売上達成する、実績をつくる、起業する
多くの場合、下流に大目標・理想をおいて、それを達成するために、中流に習慣にしたいこと、上流に日常的にやらなければいけないことが挙がると思います。
ゲーム性が成立しないケース
ゲームが行動を促がさない場合、次のようなことが考えられます。
・下流の目的が自分の目的ではない(やりたいことではなく、やらなければいけないことになってる)
・上流・中流・下流に因果関係ができてない
・上流・中流に直接的な感覚的報酬がない(下流のための手段であるだけでなく、それ自体にも喜びが必要)
ゲーム企画は欲望形成
ゲーム企画では「エネルギー」を与えて喜ばせる設計だけでなく、「エネルギー」が欲しくなる仕掛けも必要です。
左を「需要の演出」、右を「供給の演出」といいます。
需要の演出:「新しい訓練施設を作るのに、あと少しエネルギーが足りない!!」
供給の演出:「バトル勝利報酬! 120エネルギーを手に入れた!」
ご褒美系の「供給の演出」は簡単に企画できますが、「需要の演出」はプロの企画仕事です。
生活ゲームでも「需要の演出」を仕組めると、生活が変わってゆきます。
高度行動障害のある名医(すみません、お名前忘れたっ)は「欲望形成」と呼んでいます。「歯磨きができる子をつくるのではなくて、歯磨きをしたい子をつくらなければらない」だそうです。
生活ゲームの欲望形成は、「やるべき」ではなくて「やりたい」を発見したり仕組んだりすることです。
因果関係の報酬 & 直接感覚的な報酬
上述の人気スマホゲームの例でいうと、訓練施設を作ることは戦力キャラを手に入れるための手段として嬉しいのですが、それは因果関係の嬉しさです。
それに対して訓練私設を作ったときに、効果音やキラキラ表示が出たり、訓練施設が稼働するアニメーションが表示されてりしますこれらが直接感覚的な報酬です。
ボーリングではゴロゴロと音を立ててピンが倒れるのが直接感覚的な報酬です。
生活ゲームにもそれが必要です。
それは、負けている状況を楽しむということ、恐怖を楽しむこととも関係があります。
スモールステップに喜びをもたせる工夫とも言えます。
「それが出来たら苦労しないよ」と言われそうですが、けっきょく、これしかないと思いませんか? べき論だけでは動けない、欲望形成するしかないのです。
最初に言っちゃいますが、どーしても構造がつくれないとしたら、まったく別のゲームを生きたほうがいいのかもしれないということです。
チェックポイント:それは自分の目的か?
たとえば引きこもりなどの場合、たいていの就労支援サービスは、就労を最終目的としています。それは行政の目的であって、たいていは本人の最終目的ではありません。
なので、下流に「就労」をおいてもなかなかうまくいきません。「就労」は中流かもしれません。
「就労」を中流に置きなおすということは、
・就労することで得られる、ほんとうの目的(上流)を明らかにすること
・就労自体を刹那に楽しむこと(ちょっとだけでもやれたということに価値を見出す)
を意味します。
「ちょっとだけやれた」のがOKなのはなぜでしょうか。それをすることで、だんだん慣れてくるとか、なぜ続かないのかわかるという成果が得られるからかもしれません。
いろんな職場を見ることにロマンを感じるというのもありかもしれません。
チェックポイント:上流・中流に直接感覚的報酬がないのでは?
資格取得のために10ページずつテキストを読む場合は、資格取得という下流のためでありながら、その10ページを楽しめる必要があります。
そのために、テキストの目次をざっとみて、興味がもてることを確認しましょう。各章がどう役に立つか考えましょう。実務で役に立つでもいいし、一応知っているという安心感でもいいし。それはなぜ資格を取りたいかということがヒントになります。
上流への願望をつかって、中流・下流の願望を探すのです。
上流を達成するために、「中流・下流の行動をする」のではなく、「中流・下流の欲望形成をする」です。
場合によっては、「傷つくこと」が上流の報酬になることもあるのです。
たとえば、トランスジェンダーが就活する場合、面接で傷つくことを言われます。場合によっては、とっとと慣れることがプロセスになるのかもしれません。傷ついて癒されてというプロセスが必要なのかもしれません。
チェックポイント:恐怖の回避が目的になっていないか?
上流が「お金」になっていて、下流が「安定した生活」になっていることもあります。これは資本主義支配者が設計したゲームです。
自分のためのゲーム世界観
今回はこれくらいにしておきます。