より効果率が高い療法か、自分にあった療法か

繰り返しになりますが、あらためてシンプルにまとめておきます。

治療者や研究者にとっては、効果がみられたケースの割合(以下、効果率)が重要です。

効果率60%の〇〇療法よりも、効果率70%の△△療法、それよりも効果率80%の□□療法に価値があるわけです。

しかし、お悩みの当事者にとっては、そうではありません。

生物医学の場合は、それが当事者にとっての価値と一致することは多いかもしれませんが、目的が心理的なことの場合は注意する必要があります。

「効果率が高い」というのは、「多く人がそうだった」という意味です。

もし、効果率60%の〇〇療法があなたにとって効果がなかったとしたら(すなわち、40%側に入ってしまったら)、あなたが探すべきは、効果率70%、80%の療法ではありません。あなたが探すべきは、自分に効果のある療法です。たとえそれが効果率10%であってもです。

治療者や研究者は「より効果率が高い療法」を好みますが、当事者は「自分に効果のある療法」を探す必要があります。

当事者にとって「効果率が高い」というのは「自分に効果のある/自分に合う」方法を探すための手懸りにすぎません。

つまり、効果率が高い方法は試す価値があるかもしれませんが、効果率が低い(または不明)でも別の理由で期待できるならそれも試す価値があるかもしれないのです。

診断や見立てによって方法を選ぶ場合も、統計データによって判断する支援者と、その人そのものを見て判断する支援者がいます。前者を「科学的」といい、後者を「勘と経験」と呼ぶ風潮があるのですが、丁寧に言うと前者は「統計的」、後者は「現象的」でしょう。

物理学・化学・生物医学の研究で統計処理をするのはノイズを除くためです。物理法則や化学の法則は厳密な再現性があります。心理で統計処理をするのはマイノリティや例外を排除して全体の効率を上げるためです。心理のバラツキは無視すべき誤差ではなくて注目すべき個性です。

「恐怖症の人には〇〇療法が効果がある」といっても、犬恐怖症と対人恐怖症ではまったく異なります。犬恐怖症でも、噛まれた人と子供の頃に犬は危ないよと教えられた人では異なります。このような細分化をすると統計は使えなくなります。そこが個別性です。

効果率の高い療法には一目おいてよいでしょう。一方で、サンプル数たった1件の事例が人を救うこともよくあります。

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