人の否定的側面とネガティブ感情は別物

悩み苦しんでいる人や、何か心理的に上手くいっていない人について、よく混同されていることに、「否定的な側面」と「ネガティブな感情」があります。今回はこれについて書いてみます。

ネガティブ感情は何かの結果

「否定的な側面」というのは好ましくないこと、悩みの原因になっていること、変わるとよいことを指す言葉ではないでしょうか。

それに対して、「ネガティブな感情」というのは、怒り、悲しみ、嫉妬、不安などですね。これらの感情は、必ずしも否定されるべきものではありません。すなわち否定的な側面ではないです。

ネガティブ感情はなんらかの肯定的な側面を持っています。たとえば、不安は危険回避のためにあります。怒りは何かを守るためでしょう。悲しみは開くためでしょうか。

ですから、それには原因となる刺激や状況があります。

感情は原因にもなり得ますが、その場合でも感情は何かの結果であることが多いでしょう。ですから、感情を悩みの原因だと思ってしまうと上手くいかないことがよくあります。

ネガティブな感情が苦しみや問題を引き起こしている場合は、ひとまずネガティブ感情を否定的な側面と捉えるとしても、その原因を扱わないと解決しないわけです。「怒りっぽいからね」だとしても、なんで怒りっぽいのかってことですね。

また、時間軸で考えますと、すでに怒りが出てしまっている、不安が出てしまっているのを抑えようとしてしまうと、抑圧となってしまうことがあります。これは表面的にはネガティブ感情がなくなったようでいて、なくなっていない状態です。それだと形を変えて、より厄介な(たとえば長期化する)問題が生じてくることもあります。

ネガティブ感情が思考や行動の結果である場合

とはいえ、ネガティブ感情を抑え込むことで解決しちゃうこともあります。「さあ笑え」」みたいに。身体的行動や思考によっても感情は影響を受けますから、それで抑圧ではなく本当にネガティブ感情が消えれば、それもよしです。

感情には原因となる刺激や状況があると書きましたが、実は他にも原因となるものがあります。危険でないものを危険だと思い込んで不安になるとか、侵害されていないのに侵害されたと思って怒るというように、その人の認知の方に原因(責任)がある場合です。また、行動や身体動作も原因になります。

とくにネガティブ思考によってネガティブ感情が生じている場合は、ネガティブ思考が本当の否定的側面なのですが、ポジティブ感情によってネガティブ思考を変えてしまって、その結果ネガティブ感情が起きなくなるってこともあるでしょう。その場合は、ネガティブ思考を手放しているのですが、本人はネガティブ感情を手放したつもりに感じるかもしれません。

ネガティブ感情が否定的側面である場合もある

また、恐怖に対する慣れてゆくみたいな方法もあります。苦手なものにあえて近づくことで不安をなくせる場合があります。この場合は本当にネガティブ感情(不自然なネガティブ感情)が問題な場合です。恐怖症なんかはそうですね。もはや原因はなくなっているのに、あるいは原因に対して必要以上に感情がある場合です。

ポジティブ感情はネガティブ感情の反対ではない

反対概念ではありますが、両立しないわけではないという意味です。喜びや笑い(ポジティブ感情)は、悲しまない、恐がらない、ということとは別です。カウンセリングでは泣きながら笑うクライアントはよくみかけます。

ポジティブ感情は健康を増進しますから、カウンセリングでは喜んだり笑ったりしてもらいます。ですが、泣かないように、怒らないように促すこととは違います。

とくに深層心理セラピーのように深いネガティブ感情に触れる場合は、ポジティブな感情をしっかり使います。ポジティブな感情があるからネガティブな感情に向き合えるわけです。この場合のポジティブ感情を、レジリエンスとか希望とかいいます。

ポジティブ感情とはネガティブ感情を否定することだとよく勘違いされていて、「ポジティブ感情は健康によいから、悲しむな、不安がるな」などと言われます。それちょと違うんですよね。

「怒ると健康に悪いから、怒りは控えましょう」というのは、まああるかもしれません。しかし、「怒らないと健康に悪い」場合もあります。

ポジティブ感情とネガティブ感情は関係はあるにしても、ポジティブ感情の無さがネガティブ感情というのではありません。

ポジティブ感情とネガティブ感情は両方とも必要があるということです。本来は両方とも肯定的な側面が本質です。

ネガティブ感情を消すためにポジティブ感情を使うというのは、上記の思考や行動が本当の原因であるような場合のテクニックでもないかぎりお勧めできません。とはいえ、そこを見立てるのは職人芸で難しいですから、上手くいかなかったら、アプローチを疑ってみるってことが現実的でしょう。

さらに否定的な側面も否定しないアプローチ

ネガティブ感情はむやみに否定しない、それは否定的な側面ではないことも多い。ですが、否定的側面は否定してよいのでしょうか。

たとえば、それが性格であったり、考え方の癖であったり、深層心理であったり、心の病であったりしたとしますと、専門家はそれを原因として取り除くとよくなるということを知っています。

ですが、私のところには原因療法をされて上手くいかなかったクライアントが来ます。つまり、その否定的側面も実は必要があって手に入れたものだったりするわけです。それはいまだに必要なものである場合もありますし、もう必要なくなっているものである場合もあります。しかし手放せません。

それを手放す方法はそれを否定することではない場合があります。その場合は修正(否定的な側面をなくす)ではないアプローチが必要となります。私のところで行う心理セラピーはどちらかというとこちらが多いです。

ナラティヴセラピーなどでは、そもそも否定的な側面というのを扱わないアプローチが示されています。

(前略)行為の風景とアイデンティティの風景という概念は、見過ごされてきたが重要な人生の出来事の数々に人々が意味を与え、それらを一つのストーリーラインへと引き入れるのを可能にする文脈をセラピストが作り上げる助けとなる。また、こうした概念は、人々が自分の人生についての新しい結論を引き出すのをセラピストが支えるよう導くものだがそうした結論の多くは(ドミナント・ストーリーに関連し、彼らの人生を制限してきた)欠損に焦点を当てる従来の結論とは矛盾するものである。

マイケル・ホワイト『ナラティヴ実践地図』p.71

これはいわゆるポジティブシンキング(否定的な側面を否定するアプローチになりがち)とも違うように思います。

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