未来志向は過去から目を背けない

未来志向は未来を志向することです。過去から目を背けることではありません。

ポジティブ vs アンチネガティブ

ポジティブ心理学というのも、おそらく本来はポジティブを扱うということであって、ネガティブから目を逸らすことではないはずです。

しかし、「ネガティブに向き合えないからポジティブ心理学を好んでいる」という人も多くいます。それは本当のポジティブ心理学ではなくて、アンチネガティブ心理学でしょう。

アンチネガティブに陥った人は、ポジティブとアンチネガティブの区別ができなくなります。

過去を忘れようとすること

未来志向カウンセリングというのも、過去を忘れるためのカウンセリングとは異なります。

「これからのことについて考えましょう」という言葉に「過去は見たくないよね」という意味が隠れているとしたら、それは怖れによって未来を選ぶプロセスを導くことになります。

もちろん、過去に触れるワークをしたくないというのは、それはそれで悪いことではありません。そのような生き方もありますし、今はタイミングではないという判断もありでしょう。

アンチネガティブな処置もある

過去に触れたくない、過去に触れるタイミングではない人たちのためのカウンセリングというのもあり得ます。ですが、それは過去に触れる誘導をしないということであって、本人の意に反して過去に触れることを禁じるというのとは異なります。

災害直後や、扱い難い過去について、思い出す刺激を遠ざけておくという対処はあります。

しかし、これらはポジティブではありません。そっと見守るということです。

そっと見守ることが出来るというのは、それはそれで心理支援者の資質であるかと思います。

未来志向の支援

未来志向とか解決志向というカウンセリング・スタイルもあります。これらは、過去や原因に触れないことが本質なのではなくて、解決像未来像を持ってもらうことを要とする心理支援です。

解決像とは、「悩みが解決したらどうなっているのか」「どうなることがあなたにとっての解決なのか」「どうなりたいのか」です。

すなわち、未来志向や解決志向のカウンセリングの対象者は、未来像や解決像をもっていない人たちです。

すなわち、苦しんでいるけど、どうなりたいか分からない人たち。苦しいとは言うけど、こうなりたいとは言えない人たちです。

そのような人を対象に、「どうなりたいですか?」「なにが実現するとよいですか?」と問うわけです。

それは過去を見ないようにしましょうという意味ではないです。

テクニックとして、「今は過去ではなくて未来の話をしましょう」という言葉掛けはするかもしれませんが。

過去から目を背けるために未来のことを考えるわけではありません。

心理支援をする人が過去から目を背けていたら、この違いが分かりません。

過去から目を背けたいから未来志向カウンセリングやポジティブ心理学に興味をもつという人もいますが、それは支援者としてはあまりお勧めできない態度です。その人の言う「未来を見ましょう」は「過去を見るのをやめましょう」という意味なので、「未来を見る」支援になっていない可能性があります。

すなわち、どんなに非現実的なことであっても、どんなに本心と掛け離れたことであっても、未来の話さえすれば「すばらしい。その調子!」と褒めたりします。

もしくは、「馬鹿にされたから見返してやる」というような過去への反発である未来語りであっても、「すばらしい。その調子!」と褒めたりします。それはまさに過去に支配されているということなのですが、それを続ける支援をしてしまうわけです。

ほんとうの未来志向カウンセリングとは、ほんとうに望んでいる未来を描き、語るための支援でしょう。

ポジティブシンキングや未来を語るワークショップに参加して、そのときだけ気持ちが明るくなるけど人生は不満足のままという経験のある人は、この意味が思い当たるのではないでしょうか。

現在に生きるということは彼自身の過去のことを愚かにも無視することではないし、また将来のための準備をしない、ということでもない。そうではなく勝者は自分の過去を知り、現在をよく認識し、現在に生き、そして期待を持って未来を見つめる。

M.ジェイムス, D.ジョングウォード『自己実現への道 ― 交流分析(TA)の理論と応用』p.5 「勝者」についての説明

過去を扱えた者が未来志向になれる

過去についてなんらかの折り合いがついている人は、過去に囚われない未来を描くことができます。折り合いがどの程度のどのようなものかは、いろいろあるでしょう。

ですが、まったく折り合いがついていない、ちょっと思い出すだけで冷静でなくなるようなら、他人の心理支援は難しいだろうと思います。ポジティブ心理学や未来志向カウンセリングであっても。

「過去を忘れたいです」というのは未来志向の解決像(「どうなりたいですか?」の答え)ではないわけです。そして、過去を忘れたいがための「〇〇になりたいです」も未来志向の解決像ではないことが多いように思います。

馬鹿にされたことによる劣等感をもったままで「出世して見返してやりたいです」というのは未来志向と呼ばないほうがよいでしょう。

馬鹿にされたことによる劣等感をもったままで「競争のない世界を実現したいです」と言うならば、それは過去の苦しみを未来形で表現しているわけです。

もしそれが本当の望みであるならば、いずれ過去を扱うワークに進むときがくるでしょう。

ネガティブに触れることがきるほど、幸せについて考えることができる。そんな実感を得ているのはあなただけではありません。

過去に触れたくなければ、現在志向がおすすめ

過去に触れたくない人がいても不思議ではありません。そのような人が心理支援をするとしたら、未来志向よりも「いまここ」、ポジティブ心理学よりも「あるがまま」のファシリテーターをすると向いているように思います。無理せずに静かに自分を見守り、支援対象者にもその見守りを提供するというのはいかがでしょうか。

「過去に向き合いたくないから、未来志向で心理支援をする」ということ自体が、過去への反発ですから。

ネガティブに触れたくない人も同様です。ネガティブから目を逸らすためにポジティブ心理学をするよりも、そんな自他をあるがままに受容する、コンパッションを見つけるとよいのではないかと思います。

未来志向できた者が過去を扱える

逆も考えてみましょう。

たとえば、対人不安の人が虐め被害の過去を扱うセラピーに申し込んできます。ですが、過去に囚われるために申し込むという人は殆どいません。対人不安を克服した未来が欲しいとはっきり意識している人が、過去を扱うセラピーに申し込むのです。

「職場で人と仲良くできるようになりたい」とか「もっと人と出会いたい」とか「あの人にありがとうと言いたい」とか、対人不安が解決したらできることというのがイメージされています。

もちろん、「苦しみから解放されたい」というのもモチベーションにはなりますが、そこに未来像、解決像が含まれていないと心理セラピーは進みません。それがないと過去に触れることができないからです。

つまり、過去に囚われたい人が過去を扱うセラピーに申し込むのではありません。欲しい未来がある人が過去を扱うセラピーに申し込むのです。当たり前ですが。

解決像が得られれば、そのために何をしたいかが実感されてきます。そうなった人が、過去に触れて宿題をかたづけようと思うようになるのです。

そのような人たちが、セラピーワークのなかで過去の記憶が蘇ったからといって、人を恨んだり、不幸を過去のせいにして被害者意識いっぱいで翌日から生きてゆくということはありません。

過去に触れる心理セラピーの最初には、契約とう手続きがあります。そこで、どうなりたいかをご本人が宣言します。未来への希望をもっていない人は、過去に触れるワークができないからです。

そのような現場で人が幸せへむけて展開するのを見ていると、「過去を忘れるために未来のことを考えましょう」という支援者は、希望を見失っているようにも見えるのです。

「過去と距離をおくために、いまここに意識を向けましょう」なら、そうでもないです。

永い物語として眺めると

以上のことを、あえて時系列にしてみると分かり易いかもしれません。

フェーズ1: 過去に触れないようにして、心の安静を保つ。(現在志向がおすすめ)

フェーズ2: 欲しい未来、自分の望みを知る。(未来志向がおすすめ)

フェーズ3: 宿題と対決する。(過去を扱うことを含むワークがおすすめ)

ただし、フェーズ2の未来志向は、過去回避(過去を忘れるためのカウンセリング)ではありません。

ですが、ちょっと難しい点があります。

「未来志向ができた者が過去を扱える」のだけど、逆に「過去を扱えた者が未来志向になれる」でもあるということ。鶏と卵ですね。

なので、フェーズ2とフェーズ3はちょっとずつ往復スパイラルになるのかもしれません。

最初は、がっつり過去の宿題と対決するのではなくて、「おえっ」ってなりながら振り返ることに少しずつ慣れてゆくとかですね。そして、出てきた感情を丁寧に扱ってゆくとか。時間をかけたカウンセリングとかですね。

支援者側のまとめ

心理支援者側について言うと、自分の過去が扱えないならフェーズ1の支援がお勧め。

自分の過去回避のための未来志向カウンセリングするのは、一瞬の気休めサービスになりがちで、お勧めできません。もしかしたら、依存性のある抗うつ剤みたいに儲かるかもしれませんが。少なくとも、「過去に触れたくないから未来志向の支援をする」というのは、未来志向の人の生き方と異なるという私の仮説について考えてみていただきたいです。

もちろん、自分の過去回避をしながら、クライアントに過去と向き合わせるカウンセリングをするのもお勧めできません。それは自分の恨みを果たすために、クライアントに代理戦争をさせるようなことになりがちです。

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