心理セラピーで過去を扱うと言うと、「過去は変えられないのではないか」と言われることがあります。
そのとおり、ある意味では過去は変えられません。「過去を変える」と「過去を扱う」は別のことです。
※心的現実(サイコリアリティ)の比重や現象の場(主観的な世界観)としての過去が変わることはありますが、過去が目的ではありません。
原体験は「原因」ではない
このあたりが納得いかず悩んでいる方は「過去の原因」という言葉をよく使っています。その言葉を変えれば混乱は減ります。
心理セラピーは解決や癒しが目的ですので、変えられないものを「原因」とは呼びません。過去の出来事は「原体験」と呼びます。
いわゆる原因と呼ばれているものを「原体験」と「根本原因」に区別します。
扱うタイミング
心理セラピーでは、次の3つを順に扱います。
- 解決したい悩み(未来)
- 困っていること。何を変えたいのか。どうなりたいか。
- 悩みの根本原因(現在)
- 深層意識や潜在意識にあり、人生を制限している心理的足枷。その人の性格や行動パターンを支配しているもの。たとえば、広義トラウマ、恐怖症、愛着不安定など。
- 悩みに紐づく原体験(過去)
- 広義トラウマが作られたきっかけ。たとえば、幼少体験や衝撃的な出来事。
- ※原体験は扱わない場合もあります。
これらを区別したうえで、重要なことは、問題分析の段階で原因探しと混同して原体験にフォーカスしないということです。
とくにカウンセリングの段階では、原体験(過去)を探すことは深追いしません。
あくまで軸足は「解決したい悩み」。これは、今何がおきているかという現実です。
これが変われば人生が変わる、そしてそれは変えることができる、というのが見つかれば、それが本当の問題です。
心理的足枷は、原則として、解決したい悩みに関連するものしか扱いません。心理的足枷は、主なものだけでも、普通の人で数個の持っていると言われています。心理セラピーでは、それらを全て解消しょうとするのではなく、あくまで解決したい悩みをつくりだしている心理的足枷を扱います。
過去を扱う目的
原体験を知ることには、目的ではありません。「幼少期にこんなことがあったので、私の人生はこうである」というようなストーリーを持つことはお薦めしません。これは今何が起きているかという現実ではなく、思考が創り出す解釈です。この解釈は補強のためにあらたな解釈を創りだし、人生観をどんどん制約してゆきます。
では、なぜ原体験が扱われるのかですね。それは足枷解消のために必要だから、必要に応じて扱います。
典型的には、心理セラピーのセッション前半で原体験を探し、後半で心理的足枷の解消を行います。原体験に触れるのは、後半の解消のために必要だからですので、セッションが終われば忘れてしまうくらいの位置づけです。
今困っていること、それをつくりだしている心理的足枷。それがつくられた過去の原体験。それは、必ずしも「体罰」のようなハードなことではなく、「理解してもらえなかった」「期待した言葉を貰えなかった」というような大人からみるとたわいないと思われるようなものかもしれません。
今困っていること、変えたい人生のパターンを変えます。