心理療法とエビデンス(2)効果の有無を判定するものではない

前の記事:心理療法とエビデンス(1)よくて60%程度のこと

の続きです。

「セラピストの個人的な経験則や直感ではなく科学的根拠にもとづいて心理セラピーは行われるべきです」は思想であって、科学的に証明されてた事実ではありません。セラピストの個人的な経験則や直感に助けられた人はたくさんいます。それをやめるべきだというのは、個人的な経験則や直感ではないでしょうか。

「エビデンスがない」は「効果がない」ではない

薬物療法のように「症状を治す」目的は検証しやすいですが、「幸せになる」目的は因果関係が特定しずらく検証しにくいです。

エビデンスは基本的には薬物療法を根拠づけるために用いられるものなんです。(中略)まして精神分析のように、患者個人との関係の一回性を重視する治療法だと、複数の事例を重ねて統計解析するなどナンセンス、という批判もあり得るでしょう。

斎藤環 「現代思想2021年2月号 特集=精神医療の最前線」 セルフケア時代の精神医療と臨床心理

また、ゲシュタルト療法とかファミリーコンステレーションのように、「手順」よりも支援者の「在り方」や「場づくり」や「相性」に大きく依存するものもあります。それらは実験から客観データをとるエビデンス検証が難しでしょう。

また、ドラマセラピー的な手法では、性暴力被害トラウマの方のイメージワークで、セラピストが被害者を守るように「やめろ!」と叫ぶことでトラウマ解消が起きることがあります。実際に起きます。このような手法の場合も、セラピストがどのような人物なのかで効果がまったく違ってきます。

実際の生活の中で自身の危険をかえりみず痴漢や暴力者を怒鳴りつけて追い払った経験があるセラピストがその台詞を言うのと、講習会で習った通りその台詞を読み上げるのとでは効果はかなり違います。そもそもセラピストが信頼されなくてイメージワークができないケースもあるでしょう。

また、ひきこもりの支援では、支援者が会うことすら拒絶されるため、元ひきこもりの人たちが支援者として活躍しています。そこには一定の技術や手法があるのですが、誰がやるかが効果に大きく影響します。

このようにセラピストの実体験に成果が大きく依存するような手法や支援は、手順型の手法と比べるとエビデンスを検証することができません。

ある手法が「効果がないと証明された」とテレビで報道されていたそうです。それは愛着不安定(愛着障害)のための方法なのですが、男性セラピストが母親役をしていたそうです。その手法はおそらく、母親が女性である必要があり、しかも子供を産んだことがあり、愛着安定している人を母親役にすれば効果は全く違うでしょう。実際にそのような手法で救われた人たちはたくさんいます。つまり配役を間違えているわけです。

また、手法には、「手順」ではなく「考え方」を示すものもあります。たとえば交流分析(TA)なんていうのは理論なので効果測定ができません。その視点をもって対話することで成果を出しているカウンセラーもいますが、それはエビデンスのある方法とは認められません。しかし、それによって救われた人たちはたくさんいます。

だとすると、エビデンス重視の手法というのは、「誰がやっても同じ成果がでる」ということといえるかもしれません。

自分が必要としているのは、技法(手法)か、人か、ということも支援者探しのヒントになりそうです。

Lambert MJが分析した心理療法の成功要因の比率によると、治療関係要因(セラピストとの信頼関係など)は30%、技法要因は15%となっています。ちなみに治療外要因(クライアント自身の要因、社会的サポート、幸運な出来事など)が最も大きく40%です。

また、筋肉の弛緩や眼球運動など身体にアクセスする手法は「手順」中心なのでエビデンス検証がしやすく、それに対して心にアクセスする手法は「関係性」中心なのでエビデンス検証がしにくい傾向があると思います。

エビデンスがあるというのは、「検証しやすい」という意味でもあるかと思います。そして、検証しやすさは研究者にとっては価値がありますが、悩みを克服しようとする当事者にとってはどれほどの価値があるでしょうか?

なお、繰り返しますが、本来の「エビデンスベースト・アプローチ」はエビデンスのみで善し悪しを判断する意味ではないそうです。

「信頼が要」の時代に

エビデンス”のみ”を重視する人たちがいるのは、販促の影響のみならず、心理セラピストたちの人間としての信頼が弱くなってきてるということかもしれません。深刻な心の問題の諸分野で「信頼が要」と叫ばれてる時代ですが。

また、実体験をもたない心理支援者が増えていることとも関係しているかと思います。今日ではセラピーを受ける体験をせずにセラピストになる人が増えています。実体験がなければ、頼りになるのはエビデンス情報だけになるのもわかります。

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