ゲーム再構築セラピー – トークンエコノミー

生活改善のための行動はなかなかできないのに、なぜゲームには時間を費やすことができるのか。ゲーム開発に携わったことのあるKojunがゲーム設計を生活改善に応用できないか考えてみるコーナーです。

企画力があるひと向けです。

今回はトークンエコノミー。これは、保育などの分野で使われる技法で、子供が好ましい行動(お勉強など)をすると、トークン(加算点数やスタンプなど)を与え、それが溜まるとご褒美(お菓子など)と交換するというものです。

Kojunが心理セラピーの手段としてあまり使わないと言っている行動主義アプローチの1つです。

トークンエコノミーは単なるオペランド条件付けではない

心理学では、ご褒美という強化因子を使ったオペランド条件付けと説明されますが・・・・・、ゲーム設計の観点からすると、実はトークンエコノミーの肝はご褒美ではなくて、トークンという中間成果物があるということなのです。

つまり、「お勉強をするたびに、ちょっとお菓子を与える」ではゲーム設計としてはダメで、トークンを貯めさせることが大事なのです。

いきなりお菓子を与えるのは単なる条件付けであって、トークンエコノミーではないのです。

モンスターと闘うゲームの世界だと、豪華な装備を使う快感がご褒美になるかと思います。「報酬をゲット」なんていいますね。

で、報酬を得るためにプレーヤーはログインしたり、戦闘したり、課金払いしたりするのです。

そこで、下手なゲーム設計だと、ログインや戦闘に対して嬉しい報酬である「豪華な装備」を与えてしまいます。「聖剣エクスカリバーを手に入れた!」と。これじゃだめなんですね。

上手なゲーム設計だと、ログインや戦闘に対して「20ゴールドを手に入れた!」とするわけです。そして、「1000ゴールド貯めると聖剣エクスカリバーを買える」みたいな感じにします。ゴールドがトークンですね。

そうすることで、何回もプレーヤをログインさせたり、戦闘させたりするわけです。

素人は気前のいいのが良いゲームだと思っていますが、玄人は気前が悪くてもプレイさせるのが良いゲームだと思っています。

たとえば、カジノゲームなんかは、客に勝たせてたらお店はつぶれてしまいます。日本のメダルゲームも同様に、お客に勝たせてたらお店はつぶれます。メダルを気前よく払い出すゲーム機をお店は買いません。メダルを気持ちよくプレーヤーから回収してくれるゲーム機を高く買うわけです。

モンスターと闘うゲームも、豪華な装備やレアキャラを気前よく配ったら、プレーヤの離脱は多くなります。

で、プレーヤーは「ゲームバランスが渋いか甘いか」を見ますが、ゲーム設計者は「渋くて甘い」を目指します。

ですので、なかなか直接的なご褒美は与えずに、間接的なご褒美(トークン)を与えるのです。

トークンエコノミーはスモールステップとも違う

で、生活改善にトークンを導入すると、「10キロ痩せる」を「10分運動する」に分解するというようなことになるでしょう。

そうすると、これは「スモールステップ」というやつではないかと多くの人は思うわけです。

トークンエコノミーの本質はスモールステップではありません。

スモールステップは難しいことを簡単なことに分解することが本質です。

生活改善もまあ、そうなのですが、ちょっと観点が違うでしょう。スモールステップは苦しみを小さく分割しているわけですが、トークンエコノミーは喜びを信用創造しているのです。

「聖剣エクスカリバーを手に入れた!」が100ドーパミンの快楽だとすると、トークンエコノミー設計はこんな感じです。

20ゴールド手に入れた! → 30ドーパミン
19ゴールド手に入れた! → 30ドーパミン 
23ゴールド手に入れた! → 30ドーパミン
21ゴールド手に入れた! → 30ドーパミン
18ゴールド手に入れた! → 30ドーパミン
1000ゴールド貯まって、聖剣エクスカリバーを買った →  200ドーパミンン

合計350ドーパミ

プレーヤに促すアクションの回数は6回です。

たくさんの快楽を与えて、プレーを長く続けてもらえるわけです。

冷静にみると、出し惜しみなので、ビジネスでは嫌われます。ですが、ゲームではプレーヤーは出し惜しみに不満を言いながらも、喜びは大きくなっています。これが「ゲーム設計」です。

ゲーム中の課金システムとしては、聖剣エクスカリバーを課金で売るよりも、聖剣エクスカリバーと交換可能な1000ゴールドを課金で売るほうが、行動を駆り立てます。ですので、プロのゲーム設計者はプレーヤーが欲しいものを売らず、中間成果物を売ります。

となると、生活改善のゲーム再構築でやるべきことは、簡単な作業へと分割するだけでなく、たとえ労力が増えてもいいので喜べる中間成果をデザインするってことになります。

つまり、10分間運動したときのトークンはなにかってことです。やることは同じでも「毎日10分でいいから」よりも「レコーディング・ダイエット」の方が優れているということになります。

このトークン、中間報酬をつくってゆくというのは簡単ではありません。簡単な答えを探しているなら役立たないですが、困難を克服しようとしているなら重要かと思います。だれでもゲーム設計者になれるわけではありません。向いていれば、頭の片隅においてください。

豪華な装備を手に入れるというような「既存のちょっとした心理的報酬」を使って、ログインや戦闘という退屈な作業に喜びを与えることができれば、それがトークンの設計ということになります。[1]もともと外発的動機づけであるログインや戦闘が内発的動機に化ける。

退屈で意味のない作業に、快を感じるようになったら成功です。「なるわけねえよ」という人は、ゲーム会社でアイデアをつぶす上司とそっくりですので、それを解いてゆくのが最初のゲームになるでしょう。

けっきょく行動できている人たちはゲーム構築ができているというのが見えてくるでしょう。心のブレーキ、環境による阻害要因の話は別ですが。

生活ゲーム再構築は、飴と鞭で人の行動を変えようとするのではないです。これはぜったいに避けたい勘違いです。まさに下手なゲーム設計者がやるやってることなので。

報酬よりも欲望形成

で、これもゲーム設計の上手い下手と関係あるのですが、欲望形成が大事です。

下手なゲーム設計はとにかく報酬を与えることでプレーヤーのモチベーションを維持しようとします。上手いゲーム設計はニーズを喚起します。

ゴールドを与えて喜ばせる「供給の演出」よりも、ゴールドが欲しくなる「需要の演出」のほうが高度なゲームアイデアになります。

「ゴールドを獲得!」という場面だけじゃなくて、「聖剣エクスカリバーが価格1000ゴールドで展示されていて、手元に700ゴールドで少し足りない!」みたいな「需要の演出」が必要ってことです。

高度行動障害の分野で活躍させている先生も「行動形成ではなくて、欲望形成をしなくてはいけない。歯磨きをできる子供を育てようとせず、歯磨きをしたくなる子供を育てよ」と言っています。

就労支援も「就労できるように」という発想ではなくて「就労したくなる」という発想にしないと上手くいかないように思います。「就労しなければいけない」という意味の「就労したい」ではなくてです。

ダイエットも「みっともないから痩せたい」だと難しそうです。

他にもトークン設計のコツとなりそうなことを挙げてみます。

ひとつは、中間報酬(トークン)は目に見えたほうがよいということ。「資料を読む」なら、読み終えて資料をどうするかですね。レコーディングダイエットもこれです。

見えてても上手くいかないなら、見え方を変える。

とくに「あともう少しで…こうなる」が見えるとよさそうです。(需要の演出のひとつ)

もうひとつは、行動のボトルネック、つまづいている瞬間を特定して、そこにトークンを発生させるという観点もあります。

脚注[+]

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