認知行動療法(狭義)が難しいケース

認知行動療法(狭義)はライフハックスキルにもなりますので、機会あれば経験しておいてよいかと思います。

ただし、似たようなお悩みでも認知行動療法(狭義)などの認知技法が上手ういかない場合もあります。

たとえば、ちょっとヘンな例ですが、「遠くに出掛けることができない」というお悩み(主訴)を取り上げてみましょう。

旅行恐怖症とでもいいましょうか。

専門知識を使った心理支援では、「症状(主訴)→疾患名→療法」という辞書引きをするので、この場合は認知行動療法とか暴露法とかが第一選択となるようです。

ですが、Kojunに相談に来る人たちはそういうのが上手くいかなかった人たちが多いです。

狭義認知行動アプローチが効きやすいケース

「旅行すると怪我をするぞ」という思い込みがある場合は、暴露法で旅行に慣らしたり、認知行動療法で「必ず怪我をする」という思い込みに気づいて解消したりというプロセスが解決を助けるでしょう。

たとえ、その思い込み(信念)が出来たきっかけが、幼少期に親から「旅行したら怪我をするよ」と教えられたことだったとしても、それが「間違った知識」程度のものであれば、認知再構成によって修正することはできます。

認知行動療法は、クモに対するするような不合理な恐れには有効であるものの、トラウマを負った人、とりわけ児童虐待を受けたことのある人には、あまり成果をあげていない。調査研究に最後まで参加したPTSD患者のうち、何らかの改善を見せるのは三人に一人ほどにすぎない。(中略)ほとんどの人は健康や仕事や、心の健全性にかなりの問題を抱え続ける

『身体はトラウマを記憶する』p.362 べッセル・ヴァン・デア・コーク著

この引用文献ではトラウマは主にPTSD、「認知行動療法」は暴露法のことを指しているようですが、「不合理な恐れ」かどうかによって解消方法が異なるという点では同じことを指摘しているように思います。

狭義認知行動アプローチが難しいケースのレベル1

ですが、その親が持っている恐怖があまりにも強くて、それが子である本人にも乗り移っているような場合は、認知療法で意識は変わっても、深層心理が変わっていないので、いつのまにか行動が戻ったり、肝心なときには出掛けられなかったりするということがあります。すなわち、根本解決になっていないのです。

※認知行動療法でも深層心理まで変えようとする流派(スキーマ療法など)もあるそうです。ですが、一般的な行動や意識へのアプローチでの認知再構成は、隠れた恐怖を伴うケースの根本解決は難しいのではないかと思います。

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そのような場合は、親子の境界を意識したゲシュタルト療法などの心理セラピーですっかり改善することがあります。

「私は私。私はお父さん(お母さん)ではない」という境界を得るために、勇気とか怒りとか、悲しみや恐怖を通り抜ける対決的な心理プロセスになるかもしれません。

冷静に理性を使って認知を変えてる場合ではなくて、適切に怒りを使う練習が必要です。

これには認知行動療法や暴露法とは違った性質がセラピストに求められます。理性と知識だけでは難しいですことがあります。1

狭義認知行動アプローチが難しいケースのレベル2

また、さらに難しいケースとしては、同じく親からの影響でも、「本人が旅行すると親が心配して病気になる」という世界を生きてきたというような場合があります。

「本人が旅行を計画したり、出掛けたりすると親が病気になり、旅行の計画を取り止めると親の病気が治る」という経験をしてきたクライアントです。

この場合は、本当に恐ろしいのは旅行の怪我ではなくて、親が自分のせいで病気になる(場合によっては死んでしまう)という恐怖です。

表面的には「遠くに出掛けることができない」と訴えますので、「症状(主訴)→疾患名→療法」では認知行動療法があてはまりそうですが、上手くいきません。

「旅行に出掛けても必ず怪我するわけではない」などという認知再構成法は効きません。

背景を分析して、「旅行に出掛けても親は病気にならない」という認知再構成をしても効きません。

認知再構成は間違った認知を修正することはできても、事実を変えることはできません。実際に親は病気になってるのですから、その事実を無視して認知を修正すると、本人の中に不一致が起きてさらに心の病は複雑化します。

認知的な治療をすると、理性はますます正しく、心はますます置き去りになってゆくのです。

Kojunのところに相談に来るのはそういう人たちです。

このような場合は、レベル2の例のように「私は私。私はお父さん(お母さん)ではない」という境界を得る必要はあるのですが、対決的な心理プロセスだけでは上手くいきません。

「親が自分のせいで病気になる」

そんなもん知るかーっ、・・・と怒りを使っても、それでは解けないのです。解けないから相談に来るのです。

そういうクライアントは、境界をつくる挑戦くらいはとっくに試みています。

「親を救わなくていいんだよ」なセラピーで上手くいかなければ、「親を救ってきた自分をゆるす」なセラピーが必要になります。

もはや「認知の修正」とは程遠い世界です。

親のために生きる自分も親を切り離した自分も超越して、自分を存在させることになります。たくさん悩んできた人はそれができます。

たとえば、そんな感じです。

※「旅行に出掛けるな」はへんな例ですが、実際に多いのは「起業してはいけない」「公務員と結婚しなければいけない」「人を信用してはいけない」などのお悩みです。

※「親が病気になる」以外の例としては、「私が人を信用したら、父が取り乱しては母を責める」などもあります。この場合は対人不安のような行動に表れますが、実は人が恐いのではなくて母親が苦しむのが恐いのです。

ですが・・・

最後の事例ような背景があっても、逆に認知行動療法、暴露法などの方が上手くいく人もいるかもしれません。強迫症(~しなければならない系)の場合はその可能性が高いと思います。

禁止令(~できない系)の場合は何かを守っている場合は、深層心理に触れるワークが必要になる可能性が高そうに思います。

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