積極的だが「なおさない」セラピー(1)

私はカウンセリングやセラピーの特徴として、よく「なおさない」だねと言われてきました。

で、私の「なおさない」というのは、どういう感じのことを言っているのか、例を挙げてみたいと思います。

「なおす」スタイル

世間から叩かれる不安を背負っている相談者の例です。

相談者が「僕は世間から叩かれているゲイです」という言葉を発したとします。

※「低学歴です」「無職です」「おどおどしています」など、実際には様々です。

「なおす」スタイルのカウンセラーは、たとえば「そのネガティブな発想がこの人を不幸にしている」かもしれないと判断します。

まあ、それも間違いではないでしょう。

そして、「なんでそんなふうに思うの」などとその信念をさぐったり、「叩かれてないよ」「気にしないで」「自信をもってください」と励ましたりするようです。もしくは指示は控えますが、そのように導く。

「どうせ僕は叩かれるんだ」というネガティブな心をなおして、自信をもって前向きに生きていける人間になることを勧めます。

「なおさない」スタイル

「なおさない」スタイルのカウンセラーが「僕は世間から叩かれているゲイです」という言葉を聞くと、まずは「その(ネガティブな?)発想がこの人には必要なんだろう」と捉えます。

たとえば、それは”ひらきなおり”というもので、ネガティブだけどポジティブな態度なのかもしれません。

なので「なおさない」スタイルでは、「なかなか上手くやってるな」と思うわけです。

「世間から叩かれているゲイです」という言葉には誇りすら感じます。不安もあるけど自信もあるからそのようなことが言えるわけです。そんな人に「自信をもってください」はないでしょう。

どのように進めるかは相談者のお悩みがなんなのかにもよりますが、少なくとも「相談者がネガティブだからそれをなおす」なんてことはしないでしょう。

「僕は世間から叩かれているゲイです」と言いたくなったのなら、言う必要があるのかもしれません。「叩かれているけど~」「叩かれているから~」「叩かれているのは~」など言いたいことがあるのかもしれません。

本当に言いたいことはなに? 「なおす」のではなければ、「聞き出す」のもしれません。

なにが違うのか

どちらがよいかも、相談者の目的によるかと思います。なおしてほしいのか、わかってほしいのか、といったところでしょうか。

どちらのスタイルのカウンセラーが人気があるかというと、「なおす」スタイルです。人はポジティブな言葉に引き寄せられるので、ポジティブなカウンセラーを好みます。頼りになる感じもします。

「なおさない」スタイルはニッチです。相談者側がデリケートで、かつ、あるネガティブケーパビリティ(ネガティブに耐える力)がある場合に好まれます。

相談者がデリケートなら

「なおす」スタイルの「自信をもってください」というのは、「あなたは自信がないんですね」という意味です。引きずりおろしているわけです。相談者の現状をネガティブに解釈して見下ろしている感じもします。

これに傷つくデリケートな相談者は、「なおさない」スタイルに出会うとよさそうです。「なおさない」スタイルは、相談者の現状をポジティブにというか、尊敬的に観ているわけです。

相談者にネガティブケーパビリティがあるなら

「なおす」スタイルで使われる言葉はポジティブです。カウンセラーの価値観もポジティブです。ネガティブを否定してポジティブへと導く感じのカウンセリングはよくあります。

多くの人はネガティブを嫌い、ポジティブを好みますので、これは人気があります。「自信をもってください」と言われて嬉しい人たちですね。

「なおさない」スタイルのカウンセラーは、ネガティブを怖れないので、ネガティブな世界に付き合います。

「なおさない」スタイルでは相談者をネガティブだと思わないので、「自信がないんだな」とは解釈しません。

また、仮に自信がなかったとしても、それのなにが悪いのでしょうか。「自信がないのをやめたい」という相談でもないかぎり、自信がないというのもその人の大切な人生の一部分。「自信がないのはよくない」というのは治療者の都合なわけです。「自信がないと幸せになれない」という世界観のほうが病んでいるのですから。

「自信がある」か「自信がないか」の二者択一でもないと思います。上述の「叩かれてるゲイです」の例では、「活躍する自信はあるし、よい友人たちに出会ってゆく自信もある、最終的に幸せになる自信もあるが、職場で虐められても平気という自信はない」かもしれません。「この人は自信がない」とうのはあまりにも雑な見立てなわけです。それは治療者の心の病(自信がないことへの怖れ)の投影にすぎません。しかし、「なおす」スタイルなら雑な見立てで十分なのです。とことん自信をもってもらえばよいので。

つまり、なおさなくても相談者の中にポジティブはあると信じているのが「なおさない」スタイルです。

森田療法の思想でも、ウツなどの人の中にも「生きたい」という気持ちがあると言います。もともとあるそれをみつけるわけです。

もともとあるそれを見つけたならば、ネガティブっぽい発言はすべて、不幸になるためではなく幸せになろうとしているからこそだということが明らかになります。

「なおす」スタイルは、ネガティブな発言を取り除こうとします。「なおさない」スタイルは、ネガティブな発言の真意をさぐります。

しかし、真意をさぐられることは心理的リスクです。ですので「なおす」スタイルがもつ見下ろした感じやネガティブに解釈することが余計なこととなります。

※当サイトの記事には実践経験に基づく意見や独自の経験的枠組みが含まれます。また、全てのケースに当てはまるものではありません。ご自身の判断と責任においてご活用ください。

※当サイトの事例等は事実に基づいてはいますが複数のケースや情報を参考に一般化して再構成、フィクション化した説明目的の仮想事例です。

\(^o^)/

- protected -