認知再構成法を習得しよう – 日常のセルフケア(簡易ゲーム付き)

認知再構成法(狭義の認知行動療法)は、比較的簡単に習得できます。サバイバーにも一般の方にも日常のセルフケア技術としても習得をお勧めします。

人材育成やゲーム開発に携わったことのある私が、一風変わった練習ゲームを埋め込んで習得をガイドします。

認知再構成法とは

とはいえ、普通の説明も少しさせてください。

概要

認知再構成法は、認知行動療法(CBT)の基本、または狭義の認知行動療法とも言える手法です。認知行動療法は、思考、感情、行動(、身体反応)が相互に影響を与え合うという考えに基づいています。

※この中で思考(認知)にアプローチするのが認知再構成法などの認知療法です。認知を変えることを目的とする療法ではありません。「認知に問題があるから認知療法を適用する」というのは専門家もやりがちですが。認知を変える方法は他にもありまし、認知療法で認知以外の変化を目的とすることもあります。

認知再構成法の定番であるカラム法では、次のような記録表を埋めてゆきます。

状況自動思考感情代替思考感情の変化
同僚に挨拶したのに返事がない嫌われてる怒り(80)聞こえてないのかも怒り(60)

※記録表の列(カラム)の順番やレイアウトは説明資料によって異なります。

認知再構成法は、自分自身の「思考のパターン」に注目し、それを再構築する方法です。不適切な思考や信念を特定し、それをより現実的な視点や建設的な考え方に修正することで、感情や行動に関する問題を緩和してゆきます。

20世紀にA.Beck博士によってうつ病の治療法として提唱されたアプローチが主な起源となります。

目的と効果

日常生活での不快な感情が緩和されたり、行動の選択肢が増えるなどの効果があります。また人間関係やコミュニティの質の維持にも役立ちます。(全てのケースに適しているわけではありません。→後述)

特徴

この手法は、職人技というよりは構造化されたものです。マニュアル化や普及がしやすいため、多くの研究と実践によってその効果が証明されています。

カウンセラーやセラピストと一緒に実践することも出来ますし、簡易的にはセルフケアとして自分で学ぶことも出来ます。オンライン講座やスマフォアプリもあるようです。

 
---------------------------
Kojunは、このような簡易なストレス関連技法は専門家で独占せずに、高校やアプリで若者全員に教えるべきだと思います。(参考:同志社大学メンタルヘルス予防教育プログラム
---------------------------
 

自動思考とは

自動思考とは、何らかの出来事や状況が引き金となって、ほぼ瞬時に心の中で浮かんでくる思考のことです。

状況 → 自動思考

認知再構成法の習得では、日々の状況において感じる感情や、その背後にある「自動思考」に焦点を当て、それをどのように変化させることができるのかについて学びます。

扱う自動思考の例

例えば、友人があなたのメッセージにすぐには返信してこない場合、自動的に「嫌われているのかもしれない」と思ってしまうことがあります。このような自動思考は、不必要なストレスや感情を通して、生活、健康、人生に繰り返し様々な影響を与える可能性があります。

 
---------------------------

自動思考の種類見立てゲーム(約3分間)

:  

(btn area)

 

[中止して戻る]
Clear!  
 
---------------------------
 

知識がないから出来ないですって? ボタンは3つしかありませんから、3回押せば必ず当たりますよ?

 
---------------------------

補足

認知再構成法は基本的に「好ましくない自動思考」「誤った自動思考」というものを「正す」アプローチがルーツとなっています。ですが、より広い心理セラピーの視点では、それらを「誤った」と捉えずに「これまで自分を守ってきたもの」として大切に扱う「赦す」中心のアプローチもあります。それらについては「感情の心理セラピー」など別の記事で説明しています。

---------------------------
 

そして、支援者にとって重要なことですが、多くの対人支援関係者がメンタル不調者に対して「あの人は考え方の癖が問題だから直したほうがいい。そのために認知行動療法だ」と捉えてしまっている現実があります。そのような支援者はご自身の抱えている人間関係や仕事の悩みを打ち明けたときに「それはあなたの考え方が歪んでいるからだ」と言われたらどのような気持ちになるかを想像してみる必要があるかと思います。

認知再構成法のプロセス

その主要なステップを説明します。ここではカラム法と呼ばれるスタイルに倣って、上に挙げたような記入表の一列を埋めていくように進めます。

まずは、上記の記入例を眺めてみてください。これをじーっと眺めれば、どんなことをするのか察しがつくかもしれません。なんとなく見当をつけたところで、以下の説明で確認してゆきましょう。

後のセクションで実際に試していただきますが、ここではざっとプロセスの概要をつかんでください。

1.状況の特定

不快な感情が起きた場面、変えたいと思っている感情的な反応をした場面を思い出して選びます。または、そのような事が起きた直後にこの実践を行います。

2.感情と自動思考の識別

次に、その状況で何を感じていたのか(不快な感情、ネガティブ感情)を特定して言葉にします。

続いて、そのとき何を考えていたのか(自動思考)を特定します。これにより、問題の根源となる自動思考を見つけ出すことができます。

「自動思考」が「感情」を生み出すという前後関係を押さえてください。

自動思考 → 感情

一方で、洞察手順は逆となり、「感情」を先に捉えてから「自動思考」を特定するのが基本です。

感情の特定 → 自動思考の特定

この順番逆転を意識すると、この実践が何をしているのかよく分かります。

上記の記録表では、列(カラム)を洞察順序「感情→自動思考」ではなく因果の順「自動思考→感情」にしています。これには、後で振り返りやすくなるメリットがあります。

もし、感情よりも先に自動思考を特定したならば、それはカウンセラー(セルフワークの場合は自分の内なるカウンセラー)がお気に召さない自動思考を変えてやろうと思っている証です。どの自動思考がターゲットになるかは、扱いたい感情によって変わります。自動思考を修正することは目的ではなく感情を変化させるための手段ですから、感情特定よりも先に自動思考を特定してはいけません。

3.代替思考の導入

自動思考を特定したら、それに代わる新しい、より健康的な思考を導入します。

4.感情の変化の評価

新しい代替思考を導入した後、感情にどのような変化があったかを評価します。これにより、新しい思考が実際に自分にとって有用であるかどうかを確認することができます。

習得レッスン

必要なスキルは次の通りです。

  • 記録する行動力
  • 気づくスキル(状況と感情)
  • 気づくスキル(自動思考)
  • 思いつくスキル(代替思考)
  • 振り返るスキル(感情の変化)

どのスキルが得意で、どのスキルが苦手であるか、自分を知りましょう。

レッスン1 状況と感情に気づく

次は自分の体験についてやってみましょう。

最近の不快な感情が起きた場面を挙げてください。変えたいと思っている感情的な行動(躊躇した、声を荒げてしまった等)の場面でもよいです。具体的な一回の出来事を特定します。

自分の体験した状況を1つ決めて、そのときの感情を挙げてください。

状況 →→→ 感情

感情と自動思考の識別は、かなり慣れると並行してもできますが、基本作法としてまずは感情を先に特定してみましょう。

次のように書き出してみてください。

状況     感情         
同僚に挨拶したのに返事がない怒り(80)

この説明を読むだけではなくて、ノ実際にこの表を書いてみるのが「記録する行動力」というスキルです。

 
---------------------------

思考と感情を別けるゲーム(約2分間)

:  

(btn area)

 

[中止して戻る]
Clear!  
 
---------------------------
 

「えーっ、なんでぇ」って思うものもあったかもしれません。その人にとってはそれが感情ってこともある(それで上手くいけばよい)のです。どうしてもイラつくなら、それも認知再構成してみてください。(笑)

感情を特定する場合、「感情を伴った思考」や「感情の結果の思考」や「感情を引き起こす自己意識や判断」を感情と区別するのがコツです。

「気づくスキル(状況と感情)」のために、ご自身が書いた表もチェックしてみましょう。

感情特定のチェックポイント1

「感情的な思考」を感情として特定しない

感情を特定する問いは「そのときどのように感じましたか?」です。それに対して・・・

「裏切ったなと思った💢」

「(あの人は)裏切ったのだ」というのは思考です。感情の主語は常に自分であり、「あの人」が感情の欄に書き込まれることはありません。

「怒り」という感情を伴っていたとしても、「彼は裏切った」を感情だと思ってはいけません。

「怒り」は感情ですが、「怒った理由」は感情ではありません。

「あいつはいつもそうなんだ💢」というような「怒ったから思い出したこと」も感情ではありません。

したがいまして、感情の欄には「怒り」と書きます。もしかしたら、「不安」かもしれません。

※複数の感情を挙げてもよいです。その場合は1つ選んで次のステップに進みます。

認知再構成法ではこのように感情と思考を別けるスキルが必要になります。

感情特定のチェックポイント2

「後から修正した」「あるべき」思考や感情になってないか?

実際には「怒り」が起きているにもかかわらず、「仕方ないと思います」と答えるなどです。それは感情を引き起こした自動思考ではなく、感情の後に作り出されたものです。

怒りなどの感情がない場合には「仕方ない」とは言いませんから、心理セラピストの補助があれば「仕方ない」の背景を訊ねてくれるかもしれません。

感情を特定するのが苦手な場合

感情がなかなか言葉にならない人は次のような言葉のリストから選んでもよいです。

 
---------------------------

怒り 悲しみ 恐れ 不安 恥 嫌悪 罪 困惑 寂しさ イライラ 惨め 落ち込み 焦燥 憎悪 緊張 警戒 羨望 絶望 軽蔑 焦り 後悔 悔しい 疑念 胸騒ぎ

---------------------------
 

擬態語や身体反応に関する言葉(「ガーン」「ドキーン」「ヒヤヒヤ」「うわあ」)で感情を捉えるテクニックもあります。それらは厳密には感情を特定した言葉ではないかもしれませんが、取り急ぎ感情を代弁するものとして代用することもできます。

ただし、思考だけは感情と区別するようにしてください。

SUDSを追記する

書き出した感情に、その強さを0~100の主観的数値で追記してください。この数値をSUDS(サッズ)と言います。

「怒り」⇒「怒り(80)」

レッスン2 自動思考を特定する

感情を引き起こしている自動思考、不感情の背後にある自動思考を特定してみましょう。不感情への反応として作り出した思考ではなく、感情の原因となる思考です。

状況 → 自動思考 → 感情

状況自動思考感情        
同僚に挨拶したのに返事がない嫌われてる怒り(80)

自動思考は自身にとっては当たり前すぎて意識化するのが難しい場合もあります。このレッスンが難しい場合は、参考書などの自動思考の種類(自己否定、白黒思考などが挙げられている)を参照して、ひとつづつ当てはめてみるのもよいでしょう。

これが「気づくスキル(自動思考)」です。

レッスン3 新しい思考を発見する

ここからが後半となります。前半が観察だったのに対して、後半はいくらか創造的なプロセスになります。

自動思考に代わる新しい考えを創造、発見して書き出します。では、記録表に書き込んでみてください。

これは「思いつくスキル」です。

状況自動思考感情代替思考   
同僚に挨拶したのに返事がない嫌われてる怒り(80)聞こえてないのかも

無理やりポジティブシンキングするというよりは、本当はこうだよなーというあたりを見つけるのがコツです。

代替思考を見つけるのが難しければ、自動思考に対する反証をしてみてください。自動思考が現実ではない、現実ではないかもしれない、他の可能性もあるというような発想です。

もう一つは、自動思考が現実だったとして、どれほど自分に影響があるかを考えてみてください。実はそんなに困らない、なんとかなる、なんとかできる(自己効力感)という発想です。

さて、ここでまた他人の認知再構成をお手伝いするつもりで、ゲームをしてみましょう。

 
---------------------------

代替思考のブレスト疑似体験ゲーム(約5分間)

:  

(btn area)

 

[中止して戻る]
Clear!  
 
---------------------------
 

レッスン5 感情の変化を捉える

そして感情のSUDSの変化も記入します。これが「振り返るスキル」です。

状況自動思考感情代替思考感情の変化
同僚に挨拶したのに返事がない嫌われてる怒り(80)聞こえてないのかも怒り(60)

これによって、実践への興味やモチベーションを維持します。

感情に質的な変化が生じた場合は、「勇気わいた」「気楽になった」などのように書いてもよいです。その場合も思考ではなくて感情を書きます。ポジティブ感情を表す言葉の例を次に挙げます。

 
---------------------------
安堵 興味 興奮 喜び 感謝 愛情 勇気 気楽 面白さ 楽しみ 期待 霧が晴れる
---------------------------
 

レッスン6 パターン学習する

いくつかの例に触れることで、実践プロセスのパターンを脳に馴染ませます。

次のボタンを押して、並び替えゲームをしてみましょう。このゲームの作業をすることで、実践プロセスの共通パターンが記憶されやすくなります。

 
---------------------------
認知再構成法の手順をイメージするゲーム
あなたはグループCBTに参加した後で参加仲間たちの事例を思い出しています。思い出した断片を認知再構成法の洞察手順に沿って並べ替えてください。

※理解度テストではありません。慣れるための作業です。
※完成したら表をクリックして次のケースに進みます。

※タッチパネル(スマフォ等)を推奨します。

---------------------------
 

繰り返しますが、私たちの中で起きている心のプロセスは「自動思考」(原因)→「感情」(結果)の順ですが、洞察の実践プロセスでは「感情」「自動思考」の順に特定します。逆になっている点はご注意ください。

レッスン7 実践

日常生活の中で実践を繰り返してください。ノートや手帳に縦線を引いて5列の欄をつくるとよいです。

認知再構成法の限界

認知再構成法は多くの人々にとって有用な手法でありますが、全てのケースで効果があるわけではありません。次のような場合などには、一見すると自動思考の問題のようにみえて、認知再構成法が上手くいかない場合があります。

  • 自動思考が意識では変えられない深い信念に基づく場合(トラウマや幼少体験が深く関係している場合など)
  • その自動思考によってもっと深刻な問題を抑え込んでいる場合(理不尽な体験の苦悩を退けるための自動思考の場合、自分の不安を他人に投影している場合など)

これらのような場合は別の手法、心理セラピストを探すのがよいかもしれません。しかし、そうだとしても認知再構成法は知っておいて損はありません。

また、認知再構成法がどうも上手くいかない(自動思考には気づいているんだけど、変えることができない)という体験は、別のアプローチを探すうえでも重要な情報になります。

おわりに

認知再構成法は、私たちが日常で経験する多くの心の問題に対する有効な手段となることがあります。

この記事を通じて、認知再構成法の基本的な要点、プロセス、そしてその有用性について、ちょっぴり体験的にご理解いただけたことと思います。

いきづる点があれば、一般向け参考書、講座、カウンセラー活用などへと進むとより詳しい情報やサポートが得られると思います。また、有用範囲が広いからこそ、万能ではないことも心にとめておきましょう。

参考

※当サイトの記事には実践経験に基づく意見や独自の経験的枠組みが含まれます。また、全てのケースに当てはまるものではありません。ご自身の判断と責任においてご活用ください。

※当サイトの事例等は事実に基づいてはいますが複数のケースや情報を参考に一般化して再構成、フィクション化した説明目的の仮想事例です。

広告