心の問題の解決というのは、もつれた糸を解くことに似ていると思います。
失敗やハズレの心理セラピーというのも、実はプロセスになっていることがあるように思います。
つまり、試行錯誤ってことです。
最近の心理支援では、臨床心理学に正しい答えを求める風潮があります。答えは教科書に書いてあると信じる立場です。
「上手くいかなかったらどうするんですか!」って言う専門家がいまが…
いかにも専門家の意見です。悩みの当事者はそんなリスクはとっくに背負ってます。
上手くいかなかったら? そこから学んで試行錯誤するんですよ。
教科書通りにやってみて上手くいかなかったらどうするんですか? そこからがプロの仕事でしょ。
システムを理解するには、システムを変えようと努力してみる必要がある
– クルト・レヴィン
べからず集も理由を知らないと使えないです。
もちろん、教科書に答えが書いてある悩みもあるでしょう。
私たちが扱っているのは、もつれた悩みです。
もつれた糸というのは、一端をひっぱると結び目ができてしまいます。つまり、解こうとすると悪化するんですね。
これが、心理セラピーの失敗に相当します。そこで大事なのは、「おっと、うまくいかないな」とひっぱるのをいったん止めることです。
学問に根拠をおいている心理学者の先生たちは、やめないでやっちゃうらしい。普通のセラピストはクライアントの反応を見ているので、自分の理論にない反応であっても、というか自分の理論にない反応だからこそ、いったん止めたりします。「おや? なにが起きました?」ってね。
簡単に言うと、理論よりもクライアントを信じているのです。
もちろん、クライアントの抵抗と対決する場面もあるでしょう。なので、一概にこうとは言い切れないのですが、もつれた糸の扱いを見ていると違いがわかります。
私はもつれた糸を解くのが子供の頃から得意でした。
もつれた糸の一端をひっぱると、どこかが締まる。状態は悪化するのですが、その代わり、どこが締まるのかが判るわけです。そこで、次はその締まったところを開くように別の一端をひっぱるんですね。それを繰り返してゆくと、すなわち失敗を繰り返してゆくと、だんだんと本質が顔を出すわけです。
そのうち、ひっぱると解けるということが起きてきます。それでも、ひっぱり過ぎるとどこかが締まります。
つまり、コツは、一発で解決しようと思わないこと。上手に失敗することです。
心理セラピーをしていると、お手上げになることがあります。「お手上げ」というのは、もつれ糸の「ひっぱるのを止める」ことに似ています。その状態に耐えるセラピストの能力を「お手上げ力」と呼んでいます。
心理セラピーで、あれもこれも通用しなくなって、専門家として白旗を挙げるとき、私は「次の段階に進むな」と思います。クライアントが臨床心理学をぶちのめして、ほんとうに望んていることを言うときです。
もつれ解きの最初は、ひっぱる力はほどほどがいいでしょう。占い師とか、素人のなんちゃってセラピーとか、けっこういい仕事してることがあります。権威がないのがいいんでしょうね。ひっぱっても改善しないんだよねー、ちょっと悪化するんだよねー、というところから、次のセッションのヒントや次に選ぶべきセラピストが判るようになってきます。