ラザルスという人の認知的評価理論によると、恐怖が強まるのは次の2つがYESと認知された場合だそうです。
A.それは脅威(危険)である
B.それは対処できない
これを参考に、恐怖に関するお悩みについて、大雑把に異なる種類があることを見てみましょう。
ここでの分類は一般的な診断基準とは異なります。心理セラピーの焦点を決めるときのひとつの視点です。
認知に問題があるケース
条件反射的な回避と合わせて、恐怖症と呼ばれることが多いように思います。
本当は危険ではないのに危険であるかのように捉えてしまうというお悩みです。
上述のAが誤作動していると捉えるとも出来ます。
たとえば、シャーペン恐怖症では、それが飛んできて目に刺さるというイメージがありますが、実際には飛んでくるものではありません。
ですので、「認知の修正」とうアプローチで解消したりします。ただし、説得によって修正されないことが多いので、心理セラピーのワークではシャーペンを見ながら「飛んでこないよー」という体験をすればいいわけです。
条件反射的な回避が弱まる場合には、「馴れる」という現象のようにみえるので、これらのプロセスは「馴化(じゅんか)」と呼ばれることもあります。馴化は恐怖症だけでなくトラウマの解決としても用いられます。
「馴化」によるセラピー(もしくは暴露法)は、「体験を通した認知の修正」のように見える場合もあります。
無力化のケース
トラウマと呼ばれることが多いように思います。
自分の力が及ばない状況に追い込まれることで、自己統制感を失うことで心が内なる対処をしてしまいます。
現在進行中の虐め被害などでも、対処できないという思い込みがボトルネックになっていることがあります。
上述のBが誤動作しているケースです。どのような誤動作かというと、実際には対処法があるのに対処法がないように感じてしまうというものです。諦める、降伏するという誤動作です。
これは孤立無援感(味方がいない)という感じとも結びついていて、まずは味方や守護者を感じることが必要かもしれません。心理セラピーでは「味方がいるよー」という体験をワークをすることがあります。
次の段階としては、虐め被害トラウマのような場合には、法的手段などの対処法を確認することをお勧めすることがあります。虐め被害にあうと、加害者を怒らせる行動に抵抗を感じてしまうので、けっこう嫌がります。ですから、ここでは「法的手段」をお勧めしているのではなくて、「法的手段を確認すること」をお勧めしているわけです。
つまり、実際に対処するにはそれなりに覚悟をもって戦うことになるのですが、心理的な対処としての目的は、どんな対処ができるかを知ることで、A.B.が突破されて恐怖が強まっている状態から抜け出すことができるわけです。
もちろん、緊張感は伴いますが、恐怖に支配されている状態を抜けだすことで、大きな変化が起こります。
また、過去の出来事によるショックトラウマもこれに近い側面をもちます。ただし、認知というよりは身体反応に近いようです。闘争や逃走ができないとなったときのシャットダウンを心身が覚えているような状態です。
こちらの場合は、過去を扱う必要がありますが、事件直後に感情を積極的に扱うセラピーは禁物です。それは十分な安全や時間的な距離が確保されてからです。
内なる安心基地に問題がある場合
古くは基本的安心感などとも言われ、愛着不安定(いわゆる愛着障害)が主な原因になっている場合です。これは恐怖対象というのが定まらず1、生きていることが怖いといった感じです。
これは、「安心感の注入」というアプローチに可能性があります。いわゆる愛着安定化ですね。
また、私が「父性剥奪」と呼んでいる、「失敗してもいいからやってみな」と言ってもらえた経験(第2の内なる安心基地)の欠如みたいなものをもっている人も多いようです。
もちろん、実際は複合的であり、解決ポイントがどこかということになります。そのときに、症状による細かな分類診断よりも、セラピストの実体験によるメンタルモデル(「こうすれば、こうなりそうだ」という代理内省シミュレーション)や本人による自己洞察(「それをやった方がよさそうに思う」)が役立つこともあります。
そして解決ポイントが複合的というケースもあります。たとえば、恥をかく恐怖みたいなのは、認知、無力感、安心基地の全てが重要になっていることがあります。
そのような場合は、セラピーの中で起きる失敗を使ってセラピーを起こすというようなことが必要になってきます。