怒りの感情の解放

怒りの解放は思い知らせることではない

「感情を出しましょう」とは、「感情を相手にぶつけましょう」という意味ではないです。抑圧に支配されていると、この違いが見えません。

たしかに心理セラピーのワークの中で、怒りを相手に伝えるイメージワークをすることがあります。それは抑圧されていた感情を解放するためのテクニックであって、怒りを表現すればいいというものではありません。

怒りの感情を抑圧している人は、凶暴になりたくないと思っていますが、凶暴です。

怒りを抑圧してきる人は「怒りを出す」=「相手に思い知らせる」と思い込んでいます。

「怒り」は自分の持ち物だということを知りません。「怒り」に相手しか登場しません。

「だって怒りは相手に対してのものでしょ」と言います。そうですが、誰が怒っているのか? 「私」です。「私は相手に対して怒っている」のです。

しかし、セラピー中に言葉を発するワークをするとき、心の病が深いと、この「私は」という台詞を言うことができません。

「感情を出しましょう」とは、「感情を相手に伝えましょう」が本質ではなく、主語を「私は」にしましょうということです。

それがうまういかないとき、「はい、わかりました。あいつに会って対決してきます」となったりします。それは怒りの解放ではありません。

怒りを表現して怒りが増幅する場合、それは怒りの解放ではない

怒りを表現して、暴れたり、なにかを殴ったりすることで、怒りが増幅するという相談があります。

場合によっては心理専門家に怒りを表現するように勧めれたけど、怒りが増幅しちゃうという人もいます。

そこで、「怒りを解放すると、怒りがなおさら増える」と説明する専門家もいますが、それは怒りの解放ではありません。

怒りが抑圧されていることが問題を起こしている場合に、怒りの抑圧を解くのが怒りの解放です。

怒りを表現して怒りが増幅するケースは、多くの場合、悲しみや恐怖が隠れていて、それらを隠すために怒り(のような表現)が使われていることが多いです。

そのような場合に解放すべきなのは怒りではなくて、悲しみや恐怖です。

※「怒りは二次感情である」という説は、このようなケースを指しているものと思われます。また、二次感情と捉えないほうがよい場合もあります。

「怒りの表現をしたら、どんどん怒りが増えるんです」と言う方に、「ほんとうは悲しいのではないですか?」と言うと、ボロボロと涙を流されることがあります。それが悲しみの解放です。そうすると、悲しみを隠すための怒りが必要なくなり、怒りはなくなります。

※心理セラピストではない人が「ほんとうは悲しいのではないですか?」の台詞だけ真似すると、反作用で攻撃されますのでご注意ください。

つまり、解放すべき怒り(抑圧された怒り)と、癒されるべき怒り(ほんとうは怒りではない)があるわけです。

すでに表れていて、継続している怒りは後者であることが多いです。

ですから、「怒りを表現すると、怒りが増幅する」と思われているのです。

ですが、それは心理セラピーでいうところの怒りの解放ではありません。

スキーマの変化に着地する

怒りを表出するワークを行うと、いい意味で諦めるというようなことが起きたり、自分は何を守ろうとしているのかが見えてきたりします。

これは自己一致した怒りとでもいうものであり、上記のように増幅するものではありません。心理セラピストはクライアントに自己一致を促しながら怒りのワークを行う必要があります。

それは「あいつらは俺に迷惑をかけるべきでなない」というような「べき論」から離れて「いまここ」の自分を感じる状態でもあります。

ただ、ややこしいのはワークのテクニックとして「やめろ」とか「ちゃんとしろよ」みたいな「べき論」の言葉を言ってもらうことはあります。それはクライアントが実際にそう思っていることは口に出してしまう方が手放しやすいからです。思っているけど口に出していないことは手放しにくいということがあります。

で、自己一致した怒りのワークの最後には、着地としてスキーマの修正を行うことが多いです。

怒りの表出という手法を否定しているエリスの論理療法でも、実は怒りをしっかり感じてから信念/スキーマの修正をしてもらうというステップが示されています。なので、実はプロセスは似ているのかもしれません。

ただ、感情処理を中心とするセラピーでは、論理療法や認知療法のように従来のスキーマ(上述の「べき論」など)をターゲットとして修正を促すというよりは、単に「あなたにとって大事なことはなんですか?」と尋ねたりすることでスキーマの変容が起こります。

いずれにしても、感情を表出することでガス抜きする意図とは限りません。

※隠れた怒りを表出する場合はガス抜きのようなプロセスになることがありますが、その場合はクライアントが怒りを訴えることは少なく、思いもよらない怒りとして体験されることが多いです。

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