感情力動(感情焦点化、感情処理にもとづく精神力動)アプローチでは、抑圧された感情に触れてゆきます。
たとえば、あがり症の人は、具体的な話になると緊張場面に対して「平気です」と言ったりします。本当は恐いのですが、その感情を抑圧しているわけです。または、人を恐がっていることを認めたとしても、それがどういう感情なのかわかりません。どういう感情かというのは、恐いにしても「馬鹿にされる」「見捨てられる」など、いろいろあるわけで、そこまで自覚できないということは抑圧されているわけです。
抑圧は必要な心理メカニズムでもあるので、なんでも解けばよいというものではありませんが、悩み克服のプロセスでは抑圧を解く必要があります。
このプロセスは、「自分と向き合う」「心を開く」「感情の解放」などと言われます。
それは手当のために鎧を脱ぐようなものです。むやみやたらに脱がないようになっています。
さて、感情力動アプローチのセラピーは一定の手順として養成機関で教えられています。ですが、クライアントさんが「サイコロジストさんのところでやってみたけど、効果がなかった」というのをある時期よく聞きました。それは感情が出ていない、または本当の感情が出ていないようでした。
なんでそうなるかというと、抑圧というのは感情が隠されるメカニズムですので、出なくて当然なのです。
それをセラピーの手順によって解こうとしているのが実は間違いなのです。サイコロジストというのは知識を使って人の心の問題を解決しようとする人ですから、「この手順をすれば感情が出る」という「方法」に頼るわけです。手順を暗記しているだけで意味もわかっていないケースはもっとダメですが、この意味がわかるというのは知識の勉強とは別世界なのです。知識アプローチ、科学的アプローチ(再現のある方法・手順)というのがうまくいきません。あまりサイコロジスト向けではないように思います。実際に、このアプローチをしている心理セラピストにサイコロジストは多くないようです。
実際の心理セラピーの場面はこんな感じです。
たとえば、私の場合、無言のときにクライアントに解放が起きる場合がよくあります。無言ですから、手順ではありません。「このタイミングで黙る」などという手順を暗記しても、なかなかうまくいかないのではないでしょうか。
ゼスチャーでクライアントに解放が起きることもあります。
別に超能力や霊能力があると言いたいのではありません。存在感とか、呼吸とか、クライアントが投げつけてくるものへの受け流しとか、そういうものが解放できる場を提供するようです。
だから、それは起きるのです。
セラピーの手順はというと、一応あるって感じです。なんにもせずに向かい合っているだけだと気まずいので、一応は感情に触れるワークっぽいことをやるわけです。
しかし、「感じてください」とか「思い出して」とか「・・・・だね」とか「どんな感じでしたか」とか言っても、抑圧は解けないのです。実は手順が抑圧を解いているのではなくて、クライアントとセラピストがチューニングをしたときなどに抑圧が解けます。
それは突然きます。手順通りのタイミングで抑圧が解けるのは訓練をうけたプロがクライアントの場合であって、一般のクライアントさんの場合は、意外なタイミングで突然起きます。それは手順通りのタイミングではなくて、その人がそれを許したタイミングで起きるのです。
だから、「やりかた」を勉強してもできないのです。心理セラピー(心理療法)のなかでも感情力動アプローチはとくにそれが顕著です。なので、「なにも起きませんでした」というのがよくあるのです。
臨床心理学を勉強してきたことを誇りやアイデンティティに思っていることは、不利に働きます。感情力動アプローチのセラピストトレーニングはいかに早く知識を手放せるかのトレーニングだからです。
突然起きる解放というのは、むしろ福祉職などと支援者のところでよく起きます。相談業務中に対象者が突然パニック状態になったなどの相談があります。トラウマエピソードを思い出すように誘導などしていないにもかかわらず起きます。その福祉支援者の存在感や生き様が信頼されて起こります。これは「守秘義務がある」などというレベルの信頼ではありません。
つまり、技法要因よりも関係要因が大きいと思います。