心理セラピーの「過去の記憶」に触れる/触れない

トラウマ解消について、「過去の出来事について思い出さなくてすみます」と宣伝している心理セラピーがあります。一方で、私などが主に提供してきたのは「思い出す」系です。(参考:技法・アプローチ

「思い出す」から「辛い」のか?

「過去のことを思い出すセラピーは辛い」みたいな前提で説明されることもあるようです。

しかし、過去のことを思い出すセラピーが辛いとは限りません。過去のことを思い出す手法の心理セラピーをやっていて、「いやー、辛かった」という感想を聞くことは少なくて、晴れ晴れとした表情になるクライアントの方が多いです。

セラピーがうまくいかなくて嫌な感じになることはあります。それは過去を思い出したからというよりは、セラピーがうまくいかなかったからでしょう。嫌な感じになるケースは、「悲しくなかった。なんとも思わなかった」というようにネガティブな感情を否定したままで終わるケースです。これは過去のことを思い出したから辛いというよりは、過去の感情を思い出したくないから辛いわけです。

「思い出したら辛い」と「思い出したくないから辛い」は別のことです。

心理セラピーのデモなどでクライアントが泣き叫んでいるのは、心理セラピーによって苦しめられているのではなくて、その人の中にあった苦しみを場を信頼して出せている状態であることが多いです。

泣き叫べない方がよっぽど恐ろしい世界なのです。

実体験のない治療者・支援者は、クライアントが泣き叫ばない普段にどれほどの苦痛や不安を体験しているかを知らないので、泣き叫んだときだけ苦しんでいると思ってしまうのです。

誤解の1つは、説明しているセラピストや医師がその手法によるクライアント側のセラピー体験をしていないがために、その様子を「辛いセラピープロセス」と誤解しているケースがあると思います。

誤解のもう1つは、セラピストや医師が見様見真似で感情解放のセラピーをして失敗体験となったケースによるもの。または、そのような体験をしたクライアントから報告を受けたケースによるものです。

つまり、セラピストに当事者側の体験がなくて誤解しているケース、セラピストが手法を勘違いしているケース、たんに自分の手法の宣伝のために「あれは恐いよ」と言っているケースなどがあるようです。

やり方の問題

初心者セラピストがトレーニング中によくやるのですが、「既にある恐い感情を解放すること」を「恐がらせること」と勘違いしてしまうことはよくあります。「恐くてもいいんだよ」と「さあ、恐がれ」の違いです。

これらの違いはクライアントが恐がりはじめたときに、セラピストの対応の違いとして現れます。

思い出すから辛いのか、安全でない場で思い出すから辛いのか、とも言えるかもしれません。

誰とやるのかにも依る

「過去の嫌なことを思い出してしまった」となるか、「過去のことを出せてホッとした」となるか、セラピストにも依るように思います。

過去に触れることを安心安全にしてくれるセラピストもいれば、むやみに過去に触れないことで安心安全にしてくれるセラピストもいるわけです。

前者であれば、「いままで一人でかかえてた辛さや恐ろしさを場に出すことができてホッとした」となります。

「思い出す」セラピーの場合、セラピストの人柄やセラピストとの信頼関係がより重要になってきます。心理セラピーを壊れた心の修理みたいに捉えているようなセラピストだと、ほじくりまわされた感じになりやすいでしょう。

また、クライアントを可哀想な弱い人だと思っているセラピストや、あまりにビビっている(すなわちクライアントを信頼していない)セラピストだと、過去を語ることが悲惨な雰囲気になってしまうかもしれません。

過去の記憶に触れるのは恐ろしいことだと思っているセラピストは「過去に触れる」セラピーは、そもそもできないでしょう。自分自身が通り抜けてきた、過去に触れても人は幸せになれると確信をもっているセラピストはそれがやれたりします。

ただ、泣き声をあげる人を可哀想とみなすような、人の力を信頼していないセラピストが過去や感情に触れるセラピーを実施してうまくいかないのは当然で、それは手法というよりはセラピストの方向性の問題かと思います。

ですから、自分の力を信じてくれるセラピストを探すのか、セラピストの資質にあまり依存しない手法を選ぶのか、という選択ともいえるかと思います。

クライアントにも依る

それが辛い体験なのかは人にも依るかと思います。

フラッシュバックなどに苦しんでいる人が「思い出したくない」というのはごもっともなので、「思い出さない」手法にニーズがあるのはわかります。

一方で、逃げてるから辛いという感覚のある人や、もう逃げたくないという感覚のある人は「思い出す」セラピーに抵抗ない場合もあります。「思い出さない」ことが優先事項ではない人たちはたくさんいます。

思い出すから辛いのか、逃げてるから辛いのか。「忘れようとする」っていうのが、どうもまずいらしいと気づいた方も「思い出す」系を好むことがあります。そういう人たちは「症状を消したいとか、病気を治したいとか、そういう問題じゃないんですよね」と言います。症状を治めることよりも大事な何かがあるのです。それは症状と連動はしているのですが。

クライアントのニーズとしては、「症状を抑えたい」よりも「克服したい(自分を取り戻す)」に重きがある人の場合は、心に直接アプローチする、「過去に触れる」方法を好む傾向があるようです。

過去を思い出すと恨みが増す?

トラウマ原体験の想起の心理療法が親などへの恨みを助長して失敗するという意見があります。Kojunの大人向けトラウマ原体験想起の心理療法では真逆で、最後には「親もそれなりに愛してくれていたんだ」と感想を述べる人もよくいます。恨みが解けないことはあっても、恨みが増すことは一度も見たことがありません。あなたはどちらを信じますか?


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