心理療法のエビデンスが含む意味

ある心理セラピー(心理療法)に効果エビデンスがある(統計的に成績がよい)とされるとき、次の2つの情報を含んでいるように思います。

  • What情報 その原理の有効性
  • How情報 その手順を多くのセラピストが実施できること

効果エビデンスのWhat情報

たとえば、認知行動療法のエビデンスは、「自動思考や中核信念を変更することで、悩みが解消する」という原理が多くの対象者に成り立つことを示唆しています。

たとえば、持続エクスポージャー法であれば、「記憶への暴露がPTSDの症状を改善する」という原理が多くの対象者に成り立つことを示しています。

注意点としては、80%の人(多くの人)にあてはまるということは、私に80%の効き目があるという意味ではないということです。

基本的にはマイノリティや例外を無視することで成り立つ情報です。

※研究が示す効果量の信頼区間も平均値に関するものであって個人差のバラツキ範囲ではありません。

※とはいえ、平均値は外れ値に敏感なので、その値がマイノリティーや例外を無視しているとまでは言えないかもしれません。

多くの人に効果のある原理というのは参考になります。しかし、その手順通りにやるだけが参考の仕方ではありません。

効果エビデンスのHow情報

たとえば、認知行動療法であれば、上述のWhatを実現する手順として「それぞれの状況における感情などを振り返ることで自動思考に気づき検討すること、それで問題が解消しないなら自動思考を手掛かりに中核信念を推定して・・・」が標準手続きとして成り立つことを示します。

たとえば、持続エクスポージャー法であれば、「説明により対象者を動機づけして・・・、数回に渡り出来事について語り・・・」が標準手順として成り立つことを示しています。

これらがエビデンスとしての成績が良いのは、どんな場合にどんなセラピストがやっても安定的に同じ成果が出るという意味です。

ですので、あれもこれもと手順をたくさん盛り込んだ方が数の成績はよくなります。

なので、見立てのできるセラピストならショートカットするかもしれません。逆に何かを付け加えることもあります。

たとえば、最初に対象者を説得する手順が組み込まれているほうが、エビデンスとしての成績は良くなるでしょう。ですのでエビデンスのある標準手順というのは、たいてい説得という手順が組み込まれています。

ですが在野のセラピストを訪ねてくるようなクライアントは最初からモチベーションが高いので、説得のための1時間使うのは余計です。

無手勝流と守破離の違い

セラピストがエビデンスについてある程度の情報をもつべきというのは、What情報を持つことの勧めだと思います。

それを掴むまで、なんらかの標準化された手順や師匠の真似をやってみるのは良さそうです。あるいは既に実践をしている心理セラピストは、エビデンス情報から新たなWhat情報を得ます。これは大袈裟に言えば守破離でしよう。

一方でHow情報はむしろアレンジすべきものかもしれません。What情報の原理が実現されていないときはHow情報へのこだわらないほうがよさそうです。

ちなみに、持続エクスポージャー法の教科書にも、持続エクスポージャー法を忠実に実践しない臨床家にもその教科書が役立つだろうと書かれていました。

What情報のような原理を学ばずに、How情報の手順をアレンジしてしまうのが無手勝流たあうことでしょうか。まあ、直感とか、その場でクライアントから学ぶことも必要なときがありまので、全否定は出来ませんが。

さらに言うと、What情報もアレンジされる場合があります。統計処理では拾えない大事な原理もありますので、生の人間を扱うにはエビデンス&エクスペリエンスが現実的ということでしょう。

たとえば、スキーマ(深層心理にある思い込み)の見立てについて、標準手順では「私は好かれない」「私は無力だ」のような誰でも理解できる類型が使われています。誰でも使いこなせる(初心者向けの大雑把な)枠組の方がエビデンス成績は良くなりますから。

しかし、愛着障害に精通したセラピストならその視点を加えるかもしれませんし、暴力被害に精通したセラピストなら内なるスキーマと外へ向けた対決を同時に扱うでしょう。

また、エビデンスがない(エビデンスレベルが低い)療法にもWhat情報が含まれます。それは対象者がマイノリティである場合とか、心理セラピストの技能や在り方、治療関係(いわゆる信頼関係)に大きく依存する場合です。

米国心理学会も「実証された療法」から「実証された関係」へと研究の主眼が移ってきているそうです。

参考リンク

エビデンス情報源

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