治療者視点と当事者視点

どんぐりの背比べ

かつてエビデンスがなかった療法も研究が進むとエビデンスが出てきたりします。そして、適応がある療法であれば、療法の効果率(何割の人に効果があるか)は「どんぐりの背比べ」という印象を持っている専門家も増えているようです。

これは、どうやら技術要因(療法の選択)よりも治療関係(セラピストとの相性や関係)が重要であるという意味で、大事なことです。なんせ、臨床心理学は「わが流派は最高、他はダメ」と主張し合ってきたので、ちょっと成熟してきているってことだと思います。

かつてはエビデンスは他流を蹴落とすための手段のようでしたが、いまでは技術を役立てるためのエビデンス研究になってきているようです。そして、「どんぐりの背比べ」に落ち着いてきているようです。

背比べは当事者には意味がない

ですが、この「どんぐりの背比べ」という捉え方は、ネイティブセラピストの私には、研究者や治療者に独特の視点だなと感じることもあります。

たとえば、「療法X、Y、Zのどれも改善率8割くらい」だったとします。治療者は研究データを参照しているので、療法X、療法Y、療法Zどれであっても10人中8人に効果があるという意味です。効果がないのは2人。

だから何? 治療関係の方が大事・・・それはそうだと思いますが、療法の選択は意味がないのでしょうか? 

療法Xに効果がない2人(Aさん、Bさん)は、療法Yに効果がない2人(Cさん、Dさん)と同一人物でしょうか? すなわち「8人はどれであっても効果があり、2人はどれであっても効果がない」という意味でしょうか?

そういう場合もあるあるでしょうけれども、そうでない場合もあるでしょう。そうでない場合、Aさんにとっては療法Xよりも療法Yがいいのです。

研究者や治療者にとっては「どんぐりの背比べ」ですが、Aさんにとっては違います。これが当事者視点のある感覚です。

2つの示唆

療法の選択には意味がある

治療者にとっての効率という意味での優劣は「どれでも同じ」ですが、当事者にとっては「どれでも同じ」ではないかもしれません。

「どの療法が一番優秀かな」という視点はあまり役に立たないが、「どの療法が自分に合っているかな」という視点は役に立つ可能性があります。

効果研究で療法のベスト選択はできない

その選択は療法の効果研究(効果率や効果量)では判断ができない。全く効果がないものを候補からひとまず除くことはできますが。

療法とクライアントの特徴の組み合わせの効果を研究する交互作用研究なら判断の参考になるかもしれません。たとえば、積極的なクライアントと消極的なクライアントでは向いている療法が違ったりしますね。

しかし、分類は一人ひとりを区別するほど細分化はできません。また、「表面的には積極的に振舞っているが、実はその核心については本当は消極的である」というようなことは機械的に判断できなかったりします。

将来的にはAIがそこらへんまで推定してくれるのでしょうか? (大学院で臨床心理学ではなくAIの研究室にいた私が言うのもなんだか奇妙ですが)

参考

※当サイトの記事には実践経験に基づく意見や独自の経験的枠組みが含まれます。また、全てのケースに当てはまるものではありません。ご自身の判断と責任においてご活用ください。

※当サイトの事例等は事実に基づいてはいますが複数のケースや情報を参考に一般化して再構成、フィクション化した説明目的の仮想事例です。

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