「頭で考えるのではなく、感じなさい」などと言われますが、「感じなさい」にもいろいろあります。
グランディングを意図している場合
瞑想やボディワークでしばしば用いられます。
この場合の「感じる」は、いま、ここに意識を集中したり、身体感覚を取り戻すというものであることが多く、「未来の心配」「過去の後悔」「他人への評価」への固執を手放すことを意図しています。
それによって、心にスペースを作り、課題と向き合う準備状態をつくることができます。
モチベーションを探している場合
コーチングなどでしばしば用いられます。
この場合の「感じる」は、好き・嫌い、願望などを指していることが多いようです。
一方で、ポジティブな成果を求めるコーチングでは、ネガティブな感情(悲しむ、恐がる、怒るなど)はなくすべきものという暗黙の前提がある場合もあり。
そうすると、「感じなさい」と指示しておいて、クライアントが涙を流したときに涙を拭かせるというような、矛盾したディレクションになることもあります。
「コーチングが嫌い」という声は、たいていは、ネガティブをポジティブに変えようとするコーチに対して、ネガティブ感情を丁寧に解放することを知っている(暗黙に知っている)クライアントによるものかと思います。
基本スタンスがコーチング(ポジティブに変えようとする)なのに、感情解放(次項)のメソッドを取り入れているというような場合は、混乱が起こります。
解放を意図している場合
カウンセリングやセラピーでしばしば用いられます。
この場合の「感じる」は抑圧された感情のことを指していて、それを解放(ちゃんと感じる)ことで、何かを完了したり、手放せる状態になることを意図しています。悲しみによるそれは、カタルシスと呼ばれたりします。その場合、クライアントが泣き出しても、励ましたり、涙を拭かせたりはしません。専門的には「感情処理」と言います。
ただし、やみくもに感情を刺激しても、それがクライアントの悩みと結びついた抑圧感情でないかぎり、お悩みは解決しません。
抑圧を扱う場合
パーソナリティや発達に関する躓きがある場合は、抑圧された感情に直接アクセスすることができません。その場合は、抑圧を起す恐怖心(怖れ)やジレンマに気づいてゆく必要があります。
この場合の「感じる」は葛藤を意図しています。
この場合は、抑圧を解放しようとしないセッションとなります。私が「引き」のセッション・スタイルと呼んでいるものです。人を助けたくなる性質のセッショニストにも、人の痛みに無関心なセッショニストにも向いていないスタイルです。
あえて客観視も取り入れることも必要になります。理性と感情を連携してゆく必要があります。
以前は愛着不安定に特有のものという傾向があったように思いますが、最近は多くのセラピークライアントにこの要素がブレンドされているように感じます。愛着不安定が一般的なものになってきているということかもしれません。